池上ちかこのエッセイ

<前回     次回> 

小野隆生コレクション展より第四回〜池上ちかこのエッセイ


小野隆生 その4―柱頭の肖像
「犬の肖像」「椅子の肖像」に続いて、今回は「柱頭の肖像」です。
この柱頭を描いた作品は、今回のコレクション展では、他の「断片」の作品といっしょにギャラリーの一面に飾られています。ここで注目したいのは、その位置です。かなり高い所に掛けられていることです。もし実際に古い建築の中で柱頭を見るとしたら、きっとあのくらいの高さでしょう。ちょっと「だまし絵」のような効果をねらっているようにも思えます。もっとも、この高さの設定は、作者自身によるものではないのでしょうが、なかなか良い展示だと感心した次第です。
 この「柱頭の肖像」は、柱頭彫刻の典型のような顔をしているせいか、ちょっとそっけない感じを受けます。どうしてでしょうか? この柱頭には、ロマネスク教会に見られるような、どこか稚拙で人間臭い表現が微塵もないからでしょうか?
 ジョン・ラスキンは『ヴェネツィアの石』執筆のために、ヴェネツィアの建築を細部に渡って観察し、それを素描に残しました。そのなかにパラッツォ・ドゥカーレの柱頭を描いた水彩画があります。
記録のための素描でありながら、記録を超えた何かを秘めているその絵に妙に惹かれた覚えがあります。
 小野の描く柱頭の絵も、一見写実に徹しているように見受けられます。しかし、イタリアで数多くの建築物を目の当たりにしてきた画家は、何を削り何を残すかを、冷静に、そして慎重に探って、この「柱頭の肖像」にたどり着いたにちがいありません。(完)
2009年5月29日 池上ちかこ

小野隆生「終焉の地の空には雲がない」
1998年
テンペラ・板
84.0X73.4cm
signed
420,000円(税込)



こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから

<前回     次回>    


【TOP PAGE】