2006年11月〜の展覧会 弊廊「ときの忘れもの」の2006年11月〜の企画展・常設展のご案内を申し上げます。 ◆第137回企画展 都市への視線会期=2006年11月10日[金]―11月18日[土] 12:00―19:00 *日曜・月曜・祝日は休廊 20世紀は映像の世紀といわれている。 20世紀を代表する13人の写真家たちがカメラで切り取った「都市の風景」およそ40点を展示します。 出品=ロベール・ドアノー、ハリー・キャラハン、ラリー・クラーク、エルンスト・ハース、ユーサフ・カーシュ、アンドレ・ケルテス、ジョナス・メカス、ヤン・ソーデック、ユージン・スミス、ジェリー・ユルズマン、ウィージー、マヌエル・アルヴァレズ・ブラヴォ、イリナ・イオネスコ Photographers Manuel Alvarez Bravo, Harry Callahan, Larry Clark,Robert Doisneau, Ernst Haas, Yousuf Karsh,Andre Kertesz, Jan Saudek, Jonas Mekas,W. Eugene Smith, Jerry N. Uelsmann, Weegee, Irina Ionesco アンドレ・ケルテス (Andre KERTESZ,1894〜1985) ハンガリーのブダペスト生まれ。独学で写真を学びフリーランスで活動。1925年パリに移住し、フランス、ドイツの多くの雑誌,新聞の写真を撮る。1920年代から30年代のパリの前衛芸術家の多くと交流し、その肖像を手がける。1925年発売のライカを積極的に使い,手持ちカメラの分野でもパイオニア的存在。1930年頃から凹面鏡上の反射映像を写した《ディストーション(歪曲)》のシリーズを撮る。1936年アメリカに移住。1964年ニューヨーク近代美術館で個展。卓越した画面構成の直観と被写体への人間的共感に、モダンの精神が集約されている。 ハリー・キャラハン (Harry CALLAHAN,1912〜1999) 1912年米国ミシガン州デトロイトに生まれる。ミシガン州立大学で工学を学んだ後、クライスラー自動車部品会社に勤める。写真は独学。1941年アンセル・アダムスの作品に感銘を受け、本格的に写真に取り組む。1946年からシカゴのインスティテュート・オブ・デザインで教鞭をとり、モホリ=ナジの影響を受ける。白と黒に還元されるミニマリズムの写真から、妻のエレノアをモデルに多重露光やフォトモンタージュなどを施した実験写真、同じく工レノアを題材にした大型カメラの細密描写、建築写真やスナップなど、クールでありながら叙情的な作風で知られる。「自分の感情を表現するためには、まず自分と人生の関係を考えたい」と語る彼の作品は神秘的な要素もある。 W・ユージン・スミス (W. Eugene SMITH,1918〜1978) 1918年米カンザス州生まれ。14歳頃から写真を撮り始め、1934年には地方新聞に写真が掲載される。1936年、成功者だった父が大恐慌と大かんばつで穀物相場に失敗して自殺、学校関係の写真を撮ることで奨学金を得て、大学に入る。1937年には『ニューズウィーク』誌の仕事を始める。1938年にはブラックスター・フォトエージェンシーに参加、多数の雑誌に寄稿。第二次世界大戦に雑誌通信員として従軍。1945年、沖縄戦で重傷を負い、療養後『ライフ』誌と契約し、1940年代後半から1950年代半ばの全盛期の『ライフ』誌で数々のフォトエッセイの代表作を発表、人間性に対する問題の核心を突く。1960年代、日立製作所より撮影依頼を受け来日。1970年代前半は水俣に移り住み産業汚染の実態を記録、世界各国で大反響を呼ぶ。1978年10月、脳溢血で死去。 ウィージー (WEEGEE.1899〜1968) 1899年オーストリアのズロチエフ(現ポーランド領)生まれ。本名、アーサー・H・フェリグ。ウィージーの名はウィージャ・ボード(心霊術に用いられる文字記号を記した板)にちなんで名付けられた。1910年家族とともにアメリカへ移住。家計を助けるため14歳で学校をやめ、皿洗いや映画館のバイオリニスト、パスポート写真スタジオのアシスタントなどに従事した後、1924年にアクメ・ニューズピクチャーズ(現UPI通信社)の暗室技師として採用された。1935年にフリーランスとなり、ニューヨーク市警マンハッタン本部を足掛りに殺人現場や交通事故、火事場の救出作業等を大型フラッシュで撮影、数々の新聞に掲載される。1945年に『裸の街』を出版し、時代の寵児となる。ニューヨークの暗部にシニカルな視線を注ぎ、直截的かつドラマティックな独自のスタイルを確立した。 ラリー・クラーク (Larry CLARK,1943〜) 1943年米国オクラホマ州タルサに生まれの写真家・映画監督。1971年に写真集「タルサ」を発表、各界に大きな反響を呼ぶ。その後12年のブランクを経て写真集「ティ−ンエイジ・ラスト」で復帰、95年には「KIDS」で映画監督デビュー。 <都市への視線>出品リスト 2006.11.10〜11.18
見積り請求(在庫確認)フォーム展示風景 「やぶにらみ/都市への視線」原茂〜コレクターの声第10回ギャラリーの扉を開くと迎えてくれるのが、つい先日(といっても調べたら2002年10月19日だった)100歳で死去したブラヴォ の「腰を下ろす人々」。ポール・ストランドに「メキシコのアジェ」と評されたその視線はあくまでも穏やかで優しい。その隣にはハリー・キャラハン「シカゴ」と「デトロイト」が上下2段に掛けられている。こちらから受けるのはピリリピリリといった緊張感のある視線。お次はラリー・クラークの出世作にして代表作にして問題作にして繰り返し各国で再版され続けている傑作写真集「タルサ」から2枚。この2枚が特別なのかもしれないが、神経質そうで不安定でしかしそれでも決して暴力的でも投げやりでもないむしろ暖かな視線が感じられるのが不思議。 振り向けばソーデックとユルズマンが2枚づつ。こちらは都市への視線というよりは、邪眼とでもいうべき作者の眼差しによって変容させられた(というよりもその本質がむき出しにされたというべきか)異形の小世界。いずれも小サイズながら二人の特異な作風が実に良く出ている作品。デジタル全盛の今ではそれほど驚かないかもしれないが、これがどちらも手彩色と暗室作業というアナログで創り出されているといったら驚く人が多いのではないか。これから写真がデジタル化されればされるほどますますその希少性と価値が増して行くに違いない作品群である。ソーデックは技法からして一点物だし、ユルズマンも大量のプリントが作れるような手法ではないはず(調べたわけではないから違うかもしれないけど)。少なくても写真を知っている人の間なら、ソーデックやユルズマンを持っているといわれれば「ううむ、おぬし出来るな」となるはずである(わたしなら「へへえ」と平服してしまうであろう)。プライスからしたら今回一番のお買い得かもしれない。 隣にはウィージー、ユージン・スミス、アンドレ・ケルテスと大御所がそろい踏み。いずれもその代表作だが、暖かなシニシズム、甘苦いユーモア、端正なウィットとでも言うような(うーん、苦しい)三者三様の眼差しが面白い。特に印象的だったのがウィージー。もっと荒々しいプリントをイメージしていたので、プリントが繊細で美しいのにびっくり。こればかりは実際に近くで見てみないと分からない。プリントの名手として知られ、自称「今日本で一番きれいな暗室を持っている男」、写真家の渡部さとるさんも「ウィージーの『コニーアイランド』が凄かった」とご自身のHPでコメントしておられた。名作「上流社会の人々(批評家)」も見られたし満足満足である。 その奥のユーサフ・カーシュの「ジョージア・オキーフ」はうっとりとしてしまうような仕上がりだし(光が実に美しい)、イオネスコの「カイロ」シリーズも面白い。カーシュからは「リスペクト視線」(?)とでもいうべき被写体への尊敬の念が伝わってくるし、イオネスコは太陽の光の中でまっすぐに被写体に向けられた率直な視線がむしろ新鮮。 対面にはケルテスの10点組のポートフォリオから5点が展示されているが、今から30年も前のケルテスのポートフォリオがこの値段で出ることはあってはならないことだ。1点21万円にしかならないわけだから、これは日本の現存の写真家のモダンプリントの価格でしかない。巨匠に失礼ではないかとさえ思うが、この価格を示されながら買い手が付かない方がもっと失礼であろう。日本の恥をすすぐために誰か立ち上がって欲しいものである。 隣にはエルンスト・ハースから3点。カラー写真がまだ「芸術」として認められていなかった時代にカラー写真を芸術として認めさせた「色彩の魔術師」の代表作。「アルバカーキ、ニューメキシコ 1969」は、エルンスト・ハース・エステートの HP に使われているほど。世界を形ではなく色によってとらえようとしたその視線が、当時どれほどの驚異をもって迎えられたかは今からでは想像できないであろう(私も想像できない)。エステートプリントは現在でもエステートから直接購入可能だが、16x20:$5,000、20x30:$6,000、30x40:$20,000(サイズはいずれもインチ、別サイズは応相談)とのことである。展示作品は12×17インチということになるが、それにしても315,000円(税込)という価格が破格であることはよく分かる。 少し陰になっているところにジョナス・メカスの作品が3点。決して美しくも清らかでもないはずの世界と人とをなお愛し慈しむかのようなその視線は、それでもなお世界は美しくにもかかわずなお人生は生きるに値することを教えてくれる。「映像を志す人にとって神様のような人」の限定わずか10部オリジナル・プリントがこの価格で購入できるのは世界広しといっても「ときの忘れもの」だけ。別にこれはゴマすりでもコマーシャルトークでもなく事実。メカスさんを扱うニューヨークの画廊ではこれに倍する価格がついているはずである。メカスさんの作品をプロデュースし版元としてエディションしてきたプライマリ・ギャラリー(市場に流通している作品を右から左に流して利ザヤを取るセカンダリ・ギャラリーとは異なり、自分で作家を発掘し作家と共に作品を世に送り出していく芸術の担い手としての本来の意味でのギャラリーのこと。海外ではどんなに売り上げが大きくてもプライマリでないと尊敬されない)であればこその価格である。一セットあれば30年後といわず十数年後には一財産になっているはずである。 会場を一回りして戻ってきたのがメインディッシュとも言うべきドアノー「市庁舎前のキス」と「バレ氏のメリーゴーランド」の前。視線が作品よりも先にプライスへと注がれてしまうのが貧乏人のさもしい根性ではあるが、昨日の夜 Sotheby's から Auction Results Now Online - Photographs (Sale L06431) が届いてしまったのだから仕方がないではありませんか。11月14日にロンドンのボンド・ストリートで開かれたサザビーズの写真オークションでは、ロットナンバー41に「市庁舎前のキス」、46に「バレ氏のメリーゴーランド」が出品され、それぞれ12,600ポンドと、5,040ポンドで落札されている。日本円だと280万円と112万円というところか。 もちろんコンディションや履歴、オークションの流れによって価格は大きく上下するけれども、ROT41の「'LE BAISER DE L'HOTEL DE VILLE', 1950, PRINTED 1980S、6,000?8,000 GBP、Lot Sold. Hammer Price with Buyer's Premium:12,600 GBP、MEASUREMENTS:299 by 400mm (11 by 15 in.),DESCRIPTION:Silver Print, signed in ink in the margin, initialled, titled and dated in ink on the reverse,LITERATURE AND REFERENCES:Doisneau, R. 1980, pl. 33. Gautrand, J.-C. 2003, p. 122.」と「市庁舎前のキス,パリ、1950, Printed later、Gelatin Silver Print、24×30cm、Signed、1,417,500円(税込)」。そして、「バレ氏のメリーゴーランド、制作年:1955年、プリント年:1980年代、落札予想価格:2,000?3,000ポンド、落札価格:5,040ポンド、作品サイズ:404mm×298mm (15 7/8インチ×11インチ)、注記:ゼラチンシルバープリント、余白部分にインクでサイン、裏面にイニシャルとタイトルおよび日付がインクで記載、出典及び参考文献:R.ドアノー、1980年、図版139;J.-C.Gautrand、2003年、140頁」と「バレ氏のメリーゴーランド、1955年, モダンプリント、ゼラチンシルバープリント、30.5×25cm、サイン有、472,500円(税込)」を比べてみるなら、サイズの違いが大きいにしても、「ときの忘れもの」がいかに大バーゲンをしているかがはっきりする。 全部でいくらですか、と尋ねたお客さんがいたとかいないとかであるが、冗談抜きでまとめて購入してその足で飛行機に飛び乗ってニューヨークでもロンドンでも商売のできる価格(つまりは仕入れ価格ですね)なのだと思う。聞けばバブル華やかなりし頃、美術館への貸し出しなどをしていたコレクションが某所に眠っていたのを発掘したとのことである。 いずれにしても美術館に収まっていなければならない写真の数々なので、こちらとしては、「眼福、眼福」とにこにこしていればいいだけなのであるが、これがどこにも収められないでついには海外流出(というか還流)というのはいくらなんでも情けないのではないだろうか。負けるな日本の美術館! がんばれ日本のコレクター! である。ワタシですか? わたしはスタンドで「ガンバレ! ニッポン!」「ガンバレ、ギャラリー!」と旗を振る私設応援団ということでご勘弁を。だって141万7千500円のプライスに目がくらんで、ドアノーの視線のことなど上の空になってしまう草野球のライトの8番がメジャーリーグのバッターボックスに立つわけにはいかないじゃないですか。 2006年11月17日 (はらしげる) ◆画廊コレクションより 恩地孝四郎、O Jun、内間安瑆2006年11月21日(火)〜11月29日(水)12:00〜19:00 *日曜・月曜・祝日は休廊
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