1970年前後の日本で起こった美術の動向「もの派」を代表する作家・関根伸夫の展覧会を開催します。本展では、多摩美術大学絵画科油画の学生時代に描いた油彩など初期作品を中心にご覧いただきます。
関根伸夫が美大3年、4年の時に制作した〈鉱物シリーズ〉は、それまでに制作していた〈エロスシリーズ〉と〈仏像シリーズ〉が混然一体となって、黒い湖水ともいうべき暗黒と、そこに落ち込んでいく形体どもの悲しげな表情が中心で、関根が一番内的部分に沈殿した時期です。1966年に斎藤義重に出会い、抽象画の基礎知識を学ぶうちに自身の作品の理論性の弱さに気づきます。模索の末、現代の最先の空間認識・空間解釈を研究し、位相という空間認識法に結びつきました。1968年に初めての野外彫刻展に参加し、須磨離宮公園の大地に大きな穴(円筒)をスコップでひたすら掘り、掘り出した土をその穴の脇に円筒形に積み上げた 《位相ー大地》を発表。延々とその作業を続けたとしたら地球の中身は空っぽになり、隣にまったく同じ地球が生まれるという位相幾何学を援用した思考実験ともいうべき壮大なスケールの作品で関根伸夫は一躍スターとなりました。
1970年にヴェニス・ビエンナーレの日本代表に選ばれ、これを機に渡欧。ヴェニス・ビエンナーレにステンレス柱の上に自然石を置いた《空相》を出品し、後にデンマーク・ルイジアナ美術館の永久所蔵作品(セキネ・コーナー)となります。建築と芸術が融合したイタリアの都市・建築空間に感銘を受け、日本ではまだなじみの薄かった「環境美術」をテーマとした活動をするため1973年に(株)環境美術研究所を設立しました。
関根伸夫展の第一弾として、《位相―大地》以前の貴重な初期油彩を中心に、彫刻、版画、ポスターなどを展示し、関根伸夫の変遷をたどります。
■関根伸夫(せきね のぶお) (1942〜2019)
1942年埼玉県生まれ。1968年多摩美術大学大学院油絵研究科修了、斎藤義重に師事。1960年代末から70年代に、日本美術界を席捲したアートムーブメント<もの派>の中心的な作家として活動。1968年の第一回須磨離宮公園現代彫刻展受賞作《位相―大地》は戦後日本美術の記念碑的作品と評され、海外でも広く知られている。1970年ヴェニス・ビエンナーレの日本代表に選ばれ、渡欧。《空相》はヴェニス・ビエンナーレの出品後にデンマーク・ルイジアナ美術館の永久所蔵作品(セキネ・コーナー)となる。帰国後、1973年に公共空間を活性化させるアートに関心を移し、(株)環境美術研究所を設立する。1975年現代版画センター企画による全国同時展「島州一・関根伸夫 クロスカントリー7,500km」を機に版画制作に本格的に取り組む。1978年にはルイジアナ美術館(コペンハーゲン)他、ヨーロッパ3国巡回個展を開催する。全国各地で数百に及ぶアートプロジェクトにアーティスト、アートディレクターとして参画。2000年光州ビエンナーレ、2002年釜山ビエンナーレのほか、2001年イギリス・テートモダンギャラリーにて開催の「世紀」展では1969- 1973年の東京を代表する作家として参加。2012年「太陽へのレクイエム:もの派の美術」(Blum & Poe、ロサンゼルス)に参加し、アメリカでも脚光を浴びる。2019年5月ロサンゼルスにて永眠。
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