小野隆生の「断片」をめぐって
その10.仮面―――そして「目」だけが残った
隠された危険な関係 仮面と聞いてまず思い浮かべるのが、ヴェネツィアのカーニバルです。その昔、博打や売春などが横行し、退廃ムードが漂っていたヴェネツィアにおいて、仮面は身分を隠して悪い遊びに興ずるための格好の道具だったようです。仮面や仮装を禁ずる法を制定しても一向に改善されなかったため、カーニバルという形式が取られたと言われています。この期間だけは、大手を振って仮面を付けることができたのです。その効果あって、犯罪は激減したとか。
 現在も続くこのカーニバルの様子を写真などで見ると、ほとんどの仮面には華麗な装飾が施されています。身分(自己)を隠すという点では共通していますが、カーニバルの仮面と比べて、この「断片」の仮面はかなりシンプルで研ぎすまされた感じがします。
 この絵の主人公は、どんな思いでいるのでしょうか。その目は何かを狙っているようにも見えます。「隠された危険な関係」という作品タイトルも意味ありげです。主人公は己の正体を隠そうとして、仮面と目を残して、他の身体全てを消し去ってしまったようです。そして最後には仮面さえも剥ぎ取り、「目」だけが残る・・・。「目」は、相手を見るためになくてはならないものだからです。
(2008年8月26日 いけがみちかこ)

*掲載図版は小野隆生「隠された危険な関係」池田20世紀美術館カタログno.11
1998年 テンペラ・板 37.0×73.3cm

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