小野隆生の「断片」をめぐって
その11.人物像―――偶然できた重なりの光景
小野隆生 今から十数年前、画家がアトリエを構えるチッタ・デッラ・ピエヴェを訪ねたことがあります。アトリエの白い壁には、制作途中の人物像の「断片」が、無造作に立て掛けられていました。少しずつ重なり合った人物像たちの様子は、まるで知らない者同士が行き交う都会の一場面のようで、画廊で見るのとは異なる雰囲気をつくりだしていました。
 アトリエ訪問を終えた私は、優れたフレスコ画の残るイタリアの地方都市を巡ってみることにしました。アッシージのジオット、アレッツォのピエロ・デッラ・フランチェスカ、そして最後に訪ねたのが、マントヴァのパラッツォ・ドゥカーレ内にあるマンテーニャの壁画でした。8m四方の小部屋「カメラ・デリ・スポージ(夫婦の間)」の壁には、ロドヴィゴ侯夫妻とその家族、廷臣たち、小姓、猟犬や馬などが、絵巻物のように埋め尽くされていました。それは、壁画をひとつの空間として感じ取ることができた貴重な体験でした。群像肖像画の人物たちは、それぞれ思い思いの方向を向いています。一人ひとりはバラバラのようでいて、決してそうではないのです。しばらく見入っているうちに、ある光景を思い浮かべていました。それは数日前、画家のアトリエで見た、あの「断片」たちの佇まいでした。
          (2008年9月2日 いけがみちかこ)

*掲載図版は小野隆生「雪が降っていた」池田20世紀美術館カタログno.2
1995年 テンペラ・板 179.0×101.0cm