小野隆生の「断片」をめぐって
その12.家族の肖像(1)―――交わることのない視線
現在、池田20世紀美術館で開かれている小野隆生展のなかで、とくに注目したいのが「モルタッチ家の断片」のシリーズです。12人のモルタッチ家の人々は、1993年から97年の間に描かれ、2年ごとに発表されましたが、それらが一堂に会することは、これまでなかったからです。それは画家自身でさえ初めて目にする光景なのです。美術館のメインの展示室の壁に横一列に並べられた様子は、まさに圧巻です。
モルタッチという名がどこから来ているのかを、画家に問うたことはありません。問うてはいけないというよりも、この家族の名からして、すでに見る側の想像力をかきたてる何かを持っているように思えるからです。モルタッチ家、それはイタリアの由緒ある家柄で、しかし世間には知られていない陰の部分を持ち合わせている、といったように。
12人は、少年からおばあさんまで、性別も年令もまちまちです。まっすぐに正面を見据えた表情には、どこか緊張感さえ漂っています。そこには、家族が円卓を囲んで食事をするときに見せるなごやかな雰囲気は微塵も感じられません。12の家族の肖像の「断片」は、永遠に視線を交わすことなく、これからもこうして一列に並び続けていくように思えてならないのです。
(2008年9月9日 いけがみちかこ)
*掲載図版は小野隆生「モルタッチ家の断片・断片2」池田20世紀美術館カタログno.14
1993年 テンペラ・板 129.0×76.5cm 資生堂アートハウス所蔵
左は池田20世紀美術館での「モルタッチ家の断片」全12点の展示スナップ