小野隆生の「断片」をめぐって
その13.家族の肖像(2)---時を超えた人々の再会
前回に続き今回も「モルタッチ家の断片」について思いを巡らしてみようと思います。実際に広い空間のなかで、12人のモルタッチ家の人々が居並ぶ様子を目の当たりにすると、妄想がどんどん広がってゆくのです。
まずは12 人のモルタッチ家の肖像に共通している点を挙げてみるとこにしましょう。同じかたちの肘掛け椅子に座っていること。喪に服しているかのような黒い服を着ていること。正面を見据えていること。ちょっと緊張したような堅い表情をしていること。
そこでちょっとこんな仮説を立ててみました。椅子は一脚しか存在せず、そこに時を隔ててモルタッチ家の人々が1人ずつ腰掛け、ある人(家長あるいはそれ以上の存在の人物)と向かい合って、対話する。話の内容はモルタッチ家の家訓から始まり、約束事、各人の生き方、さらには告白めいたことまでが語られる。12人はモルタッチの家系のなかでも選ばれた人々で、この審問めいた儀式は10年に一度の割りで行なわれる。
そう考えると、このおばあさんは前回登場した若い女性の何十年後の姿かも知れません。長い年月を超えた家族、あるいは自身との再会。展示室の壁一面を大きなカンヴァスに見立てると、異なる時間を一つの画面におさめる「異時同図」の絵のようにも見えて来るのです。
(2008年9月18日 いけがみちかこ)
*掲載図版は小野隆生「モルタッチ家の断片・断片12」池田20世紀美術館カタログno.18
1997年 テンペラ・板 122.0×77.0cm
左は「モルタッチ家の断片」全12点の展示風景。
今回初めて12点揃っての展示となった。