小野隆生の「断片」をめぐって
その14.肖像画の生まれる街
小野隆生がアトリエを構えるチッタ・デッラ・ピエヴェについては、このエッセイでも何度か触れています。ローマとフィレンツェの中間に位置するこの街は、歴史ある城塞都市で、古くはエトルリア時代にまでさかのぼると言われています。
チッタ・デッラ・ピエヴェはトスカーナ州ではなく、ウンブリア州に属していますが、歴史的にはシエナの文化圏に入るそうです。そう言われて街を散策すると、赤いレンガの使われ方など、シエナをしのばせる部分が多くあります。石造りの重厚な建物とは違って、レンガ造りの建物がつくる家並はやさしく、どこか親しみが持てます。
街を歩いていると、カーブが多いことに気付かされます。それはその昔、敵の攻撃から身を守るためのもので、騎士が攻めて来たときに曲線だとスピードが出せないからです。さらに、前後からの狙い撃ちも可能というわけです。
ある時、カーブを曲がって姿を現わした人を見て、画家の肖像画の人物かと思いハッとしたことがありました。具体的に顔形が似ていたということではなく、私のイメージの中の小野作品の人物像と、街の雰囲気がピタッと合って、そう思わせたのでしょう。そしてわれにかえり振り返ると、もうその姿はありません。カーブは、そんなミステリアスな効果を現代の私たちにもたらしてくれるのです。
(2008年9月24日 いけがみちかこ)
*掲載図版は小野隆生「目撃者の証言」池田20世紀美術館カタログno.7
1998年 テンペラ・板 173.0×178.0cm
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画家の住む街、チッタ・デッラ・ピエヴェ。