2008年1月〜の展覧会
弊廊「ときの忘れもの」の2008年1月〜の企画展・常設展のご案内を申し上げます。
◆第152回企画展 柳沢信写真展
会期=2008年1月11日[金]―1月26日[土]
12:00-19:00 *日・月・祝日休廊
1958年写真誌『ロッコール』に発表した「題名のない青春」で注目を集め、写真家として順調なスタートを切りましたが、61年に結核であることがわかり、2年間の療養生活を送ることになります。この間、写真から離れたことで、興味の対象が広告やファッションから「変わり行く都市、変わり行く日本」へと移り、日本中の町をフィルムに収めていきます。そのまなざしは、「町とか家なんかについているアカみたいなものを、写すのが好きなんです。」と語るように温かく、しかし、センチメンタルに流されることのない独特の作品を生み出しました。
今回展示するのは、1993年にイタリア旅行をした際に撮影された作品で、初めて海外の町や人、空気を写し取り、今後の新しい展開が期待されるものでした。しかし、直後の喉頭癌と食道癌の手術によって、シャッターを切ることができなくなり、現時点では柳沢信の最後の連作となっています。
ときの忘れものでの展覧会は初めとなりますが、50年間で6回目の個展となる今回、新たにプリントしたものを含め30点をご紹介いたします。
■柳沢信(Shin
YANAGISAWA 1936- )
1936年東京墨田区向島生まれ。1957年東京写真短期大学技術科卒業。桑沢デザイン研究所に入学するが、8月に中退し、以後、フリーとなる。1958年『ロッコール』に「題名のない青春」が掲載され、注目を集めるが、1961年結核と診断され、2年間の療養を余儀なくされる。1967年「二つの町の対話」「竜飛」により日本写真批評家協会新人賞を受賞。翌年、ニコンサロン(東京)で受賞記念展。写真誌を中心に精力的に作品を発表する。1993年イタリア旅行。帰国後、喉頭癌、食道癌が見つかり手術。声を失うとともに、息を止めることができなくなり、シャッターを切れなくなる。
《個展》
1979年「都市の軌跡1965〜70」(オリンパス・ギャラリー・東京)
1980年「北陸紀行」(ミノルタ・フォト・スペース・東京)
「柳沢信写真展」(CAMERA WORKS
EXHIBITION Section-8・東京)
1994年「写真・イタリア・柳沢信」(コニカプラザ・東京)
2001年「写真に帰る」(クリエイションギャラリーG8、ガディアン・ガーデン・東京)
《写真集》
1979年『都市の軌跡』(朝日ソノラマ)、1981年『北陸紀行』(集英社)、1990年『写真・柳沢信』(書肆山田)
No. |
|
Title |
Date |
Technique |
Image Size
(cm) |
Sign |
1 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
2 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
3 |
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チンクェ テッレ |
1993
printed in 2007 |
Gelatin Silver Print |
22x32 |
signed |
4 |
|
ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
5 |
|
サン ジミニャーノ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
6 |
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サン ジミニャーノ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
7 |
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マドンナ デイ カンピーリオ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
8 |
|
ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
9 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
10 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
11 |
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チンクェ テッレ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
12 |
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サン ジミニャーノ郊外 |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
13 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
14 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
15 |
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チンクェ テッレ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
16 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
17 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
18 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
19 |
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チンクェ テッレ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
20 |
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バッサーノ デル グラッパ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
21 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
22 |
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チンクェ テッレ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
23 |
|
サン ジミニャーノ |
1993
printed in 2007 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
24 |
|
ローマ
ヴァチカン サンピエトロ寺院 |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
25 |
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ヴェネチア |
1993
printed in 2007 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
26 |
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ローマ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
27 |
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ローマ |
1993
printed in 2007 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
28 |
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サン ジミニャーノ |
1993 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
29 |
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ローマ |
1993
printed in 2007 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
30 |
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チンクェ テッレ |
1993
printed in 2007 |
Gelatin Silver Print |
22x32.5 |
signed |
展覧会風景
「写真展・イタリア・柳沢信」〜大河原良子〜コレクターの声第15回
柳沢信氏のオリジナルプリントを見るのは今回が初めてだ。
年譜をみると、柳沢氏は1958年に22歳でデビューして以来、作品の発表は主にカメラ雑誌を通じて行われたようである。今回の個展は6回目で、日本を代表する写真家の一人として、美術館の展覧会でも何度も出品されているが、それでもグループ展の開催数は10回程度だから、氏のオリジナルプリントに接する機会は貴重だと思う。
また、このような言い方を氏は嫌うかもしれないが、以前の5回の個展は写真愛好家に「展示して見せる」ことを目的としたギャラリーの展示である。「画廊」でコレクターや美術愛好家に向けて開催する初めての個展と言っていいかもしれない。
私は1978年に発行された写真集「都市の軌跡」を見たときの、心がどよめくような感覚が忘れられない。それは柳沢氏の被写体に対する態度と間合いの独特さのためだ。
柳沢氏はある対談で、「モノにも人格のようなものがあるような気がする。」と話している。氏は自らの気配を消して、誰にも気づかれずに、ただ見ることに集中する。徹底的に観察する。ある瞬間シャッターを押し、たまたまその場に居合わせたモノも人もすべて合わさった風景がフィルムに定着する。このときに風景の中に紛れていた「何か」が前面に現われるのだ。もしこの「何か」に人格があったとしたら、知らないうちに自分の気づかぬところまで、観察され記録されてしまったことに慄然とするに違いない。
さて、今回展示されたのは1993年2月から3月にかけてイタリアで撮影された作品である。写真集「写真・イタリア・柳沢信」に収録され、現時点での最後の連作だという。
「写真に言葉はいらない。」というのはデビュー当時から一貫している柳沢氏の姿勢である。このシリーズの作品も、見る者が被写体に何か余分な意味を見出したりしないよう、象徴的なものは注意深く除けている。したがってこれは単に「イタリアで撮影された写真」で、「イタリアを表現しようとした写真」ではない。石畳や建物の様子からヨーロッパ風なのは感じられるが、例えばチンクェ テッレ (No.22)やマドンナ デイ カンピーリオ (No.7)など、日本にもありそうな風景だ。どこで撮影されたとしても、「何か」はそこに写っている。この言葉にならない「何か」が柳沢氏の作品の本質なのだ。
氏は体調不良のため、6ヶ月の予定だったイタリア旅行を1ヶ月ちょっとで切り上げ帰国する。その後、咽頭癌と食道癌が発見され7月に摘出手術、喉に穴をあけた。そのため息を止められなくなって、シャッターを切れなくなったそうだ。確かに息を止めなくては「何か」に気づかれて逃げられてしまう。それ以来、新作の発表はないようだ。
展示された作品には、イタリアから帰国後、手術を受けるまでの数ヶ月間に柳沢氏本人がプリントしたヴィンテージプリントと、2007年に氏の奥様がプリントしたモダンプリントの2種類がある。サインは今回の個展のために入れたそうだが、柳沢氏が焼いたものと区別するため、ヴィンテージプリントにはフルネーム、モダンプリントはイニシャルのみが入れられている。
ヴィンテージプリントには、上記の写真集に印刷されているものと随分印象が違うものがある。写真の場合、撮影時と時間が経ってからでは、作家本人の作品に対しての解釈が変化する場合もあるし、印刷原稿は人に依頼することもあるだろう。今回の場合、私には写真集のトーンは「普通」で、ヴィンテージプリントの方がより柳沢氏らしく感じられる。
価格はヴィンテージプリントの方がモダンプリントの倍近くする。しかし柳沢氏の作品をコレクションに入れるなら、気に入ったイメージのヴィンテージプリントがいいと思う。トーンの好みやきっちり漢字で書かれたサインだけでなく、プリントがそらないように氏が独自に凝らした工夫など、手術前の時期にも関わらず、淡々と仕事をする柳沢氏らしさが伝わってくる。しかも数が限られているのだ。自分のものにした時のうれしさは倍以上だろう。
(おおかわらりょうこ)
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