瑛九(本名・杉田秀夫、1911-1960)は、1930年代から50年代にかけて、油彩、フォト・デッサン、エッチング、リトグラフなど、さまざまな技法を駆使しながら、豊饒なイメージを生み出した芸術家である(大谷省吾 東京国立近代美術館副館長)。日本の前衛美術のパイオニアとして国内はもとより海外での評価も高まっている瑛九の大規模な「生誕110年 瑛九展」が2021年に宮崎県立美術館で開催されました。そのとき、没後60数年を経て初めて見つかり公開されたのが、瑛九の年少の友人だった故・湯浅英夫がまとめて所蔵していたフォト・コラージュとフォト・デッサン群です。最近までその存在は知られておらず、ときの忘れものは昨年11月にマイアミで開催されたアートフェア「Art Basel Miami Beach 2023」にフォト・コラージュ11点を海外で初展示し、大きな反響を得ました。
本展では、新発掘の湯浅英夫旧蔵のフォト・デッサンと油彩、ドローイング、湯浅英夫が撮影した瑛九の肖像写真など約50点を前期と後期の2期に分けてご覧いただきます。
鹿児島で生まれ宮崎で育った湯浅英夫は高校生の時に瑛九のアトリエに頻繁に出入りするようになり、瑛九と都夫人が話すエスペラント語に興味を持ちます。友人とエスペラント同好会をつくり、瑛九にエスペラントを学びました。瑛九が宮崎を離れ浦和に転居した後も浦和の瑛九アトリエを訪ね、瑛九宅に寄寓していた時期もあります。展覧会の準備や銅版画制作の手伝い、アトリエの撮影などを行ない、そのとき湯浅英夫が撮影した瑛九のポートレートは晩年の様子を知る貴重な資料として、没後の回顧展等で度々使用、展示されています。
今回出品する瑛九のフォト・デッサンの中には、生前アメリカで企画された(結局は実現しなかった)個展のためにいったんはアメリカに渡り、その後日本に戻ってきた作品も含まれています。人や動物などに切り抜いた型紙を使って光でデッサンをした複雑な「フォト・デッサン」を是非ご覧ください。
展覧会に合わせてカタログも制作しました(2,750円/テキスト:東京国立近代美術館・副館長の大谷省吾氏、宮崎県立美術館の小林美紀氏、横須賀美術館の工藤香澄氏)。
「第33回瑛九展/湯浅コレクション」カタログ
図版:40点
写真:15点
執筆:大谷省吾、小林美紀、工藤香澄
翻訳:小川紀久子、新澤悠(ときの忘れもの)
編集:Curio Editors Studio
デザイン:柴田卓
体裁:B5判、84頁、日本語・英語併記
価格:2,750円(税込)
送料:250円
※画像をクリックすると拡大して表示されます。
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■瑛九 Q Ei (1911〜1960)
1911年宮崎生まれ。本名・杉田秀夫。15歳で『アトリヱ』『みづゑ』など美術雑誌に評論を執筆。36年フォト・デッサン作品集『眠りの理由』を刊行。37年自由美術家協会創立に参加。既成の画壇や公募団体を批判し、51年デモクラート美術家協会を創立。靉嘔、池田満寿夫、磯辺行久、河原温、細江英公ら若い作家たちに大きな影響を与えた。油彩、フォト・デッサン、版画などに挑み、独自の世界を生み出す。60年48歳で永逝。
明治以来、多くの画家たちが悪戦苦闘した油彩画ですが、私は瑛九こそがもっとも優れたカラーリスト(色彩画家)であると思います。既に1930年代にフォトグラムを制作した表現の地平は今から思えばマン・レイ等と並ぶ世界的な水準でした。油彩、水彩、フォト・デッサン、版画それぞれに独自の表現を求め、決して自分を模倣することはありませんでした。いつもそこには光り(最も美しい色彩)がありました。
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