第357回 小石川植物祭2023/命名〜牧野富太郎へのオマージュ
会期=2023年11月3日(金)〜11月11日(土) ※会期中無休
会場:ときの忘れもの(小石川植物園がメインの会場です)
出品作家:大塚理司、佐藤研吾、杉山幸一郎、戸村茂樹、仁添まりな、藤江民
※当初参加予定だった「佐藤敬+アレクサンドラ・コヴァレヴァ(KASA)」は、作家の事情により出品できなくなりました。
お詫びして訂正します。
ときの忘れものと同じ文京区にある小石川植物園で、第二回目となる「小石川植物祭」が開催されるということで、園外のアート部門で参加する運びとなりました。
小石川植物祭は小石川植物園で11月3日〜5日の3日間の開催ですが、ときの忘れものはギャラリーで11日まで開催します。
小石川植物祭 2023のテーマは「命名 ―なぜ人は植物に名を授けるのかー」です。
ときの忘れものは、青山で開廊以来、いつも緑の豊かな街でギャラリーを運営してきました。
ときの忘れもの亭主の子供時代は昆虫採集と植物採集に明け暮れた日々でした。
「植物」と言えば、牧野富太郎の美しいスケッチの植物図鑑がいつも手もとにありました。
日本は北から南まで、小さな島国でありながら、驚くほどの植物(生物)の豊かな多様性をもっています。
ときの忘れものでは、日本の東西南北、そして海外在住の作家に、牧野富太郎の植物図鑑を使った(またはインスピレーションを受けた)作品を制作していただきます。
1階吹き抜けには華道家・大塚理司によるインスタレーションを展示いたします。
●作家在廊日のお知らせ
11月3日(金・祝)藤江民先生
11月5日(日)大塚理司先生(12:00〜17:00ごろ)
11月11日(土)戸村茂樹先生
※変更となる場合もございますので予めご了承ください。
※最新情報はこちらのページでお知らせいたします。
●小石川植物祭HPより
生まれてきた赤ん坊に親は名前を授ける。
赤ん坊は「名前」を選べないが、生涯にわたって「名前」はその子がその子であることの証となり、出会った人々と関係を築く重要な役割を果たす。そこには親の子にこめた願い、親の享受してきた文化、親の尊敬する人間、そして親の生きてきた時代など、さまざまな背景がその「名前」から浮かび上がる。
たとえば、サッカーの試合を、選手の名前を覚えて観戦すると、背番号だけを目で追って観戦するよりも格段にゲームの理解は深まる。ピッチを走り回る選手を名前によって唯一無二の存在として認定することで、その人の動きを他の人の動きと混同することなく追跡できる。それだけではない。ゲームに至る経歴、とくに出身地や所属したチームなどが、その選手の理解に厚みを与えるのだ。
植物学者が植物に名前を授ける、という行為もまた、植物の理解を深めるのに欠かすことができない(動物でもそれは変わらないだろう)。「国際藻類・菌類・植物命名規約」に沿って植物に授けられた名前は、学術雑誌掲載のための審査をクリアすれば、その後、唯一無二の名前として学界を流通する。そうでなければ、共通の議論が成り立たない。また、科学的に名付けられた名前には、分類の情報も同時に含意される。それによって、たとえば外見が似ているだけの二種類の植物を同じものとして論じる過ちから植物学者たちを避けることが可能になる。日本の植物学者の父、牧野富太郎もまた独特のセンスで数々の植物に名前をつけ、日本植物学の基礎を築いたことはよく知られているとおりだろう。
ただ、植物の命名が持つ意味を以上のような科学的手続きの問題としてのみ理解するとすれば、それは不十分である。西欧諸国がアフリカ、アメリカ、アジアなどの新しい植民地を発見し、採取して、自国の植物園で生育していく過程と命名行為は分かちがたく結びついていた。それは、現地で流通している植物名とは異なる名前をつけることを意味した。18世紀に植物分類・命名法を確立したカール・フォン・リンネは、採取した現地の言葉を名前に入れようとするミシェル・アンダーソンのような植物学者を、「われわれの舌を使って発音できるものではない」と批判したように(ロンダ・シービンガー『植物と帝国』工作舎)、現地の言葉とそれをめぐる背景はないがしろにされがちであった。
また、植物の命名には、植物学者の親族や愛人の名前が付けられることも少なからずあったように、植物名から植物学者の個人的な心情を読み取ることさえできる。名前を知った上で、さらにその背景を知ることで、植物に対する理解はもっと深まるだろう。
ところが、由々しきことに、植物の名前が急速に人びとの記憶から消えつつある。私たちは、次第に「緑」とか「木々」という抽象的な言葉によって植物を遠くから「眺める」ことに終始しがちである。
もっと植物の名前を知ろう。私たちはどれだけ植物の名前を知っているだろうか。そしてもし自分が植物に名前をつけられるとしたら、どんな名前を選ぶだろうか。とたんに植物を見つめるまなざしが変わることに気づくだろう。そして命名という行為の意味と背景を探ることは、その植物が採取された当時の歴史を知り、立体的に植物を理解することを可能とするだけではない。ちょうど人間の名前を名乗ることから社会関係が築かれていくのと同様に、植物との関係を新しく取り結ぶことにもつながるだろう。
約4000種の植物を保有する小石川植物園は、このような命名のもつ意味を考えるのに最適な場所である。ぜひ、小石川植物園、そしてこのまちを歩き、そこに根を張る植物に名前があることと、その名前の由来を知ることで、植物をもっと深く理解していただければ幸いである。
キュレーター:藤原辰史 / 京都大学人文科学研究所准教授
●小石川植物祭メイン会場概要
2023年11月3日(金・祝)/4日(土)/5日(日)
9:00-16:30(入園は16:00まで。再入園可能)
※雨天時の決行の判断は11月1日(水)に行い、WEBや公式SNSで告知
小石川植物園
東京都文京区白山3丁目7番1号
都営地下鉄三田線「白山駅」A1出口 徒歩約10分
東京メトロ丸の内線「茗荷谷駅」出入口1 徒歩約15分
展示風景 ※画像をクリックすると拡大します。
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