君島彩子のエッセイ 第1回 「墨と出会うまで」 2010年7月24日 |
初めての個展はインスタレーション。
16歳の夏休み、銀座の小さなギャラリー。床にクッションフロアとタイルを敷き、壁にキャンバスとその上に釘で毛糸を張った作品を1週間かけて制作し1週間展示した。 タイトルは『2人目の私』。 外面からではなく内面から自分の姿を見てほしい、だから鑑賞者に作品の中に入ってもらう必要性があった。英単語を全然知らない私に、こういう形態の作品を「インスタレーション」と呼ぶのだと個展を見に来たお客さんの1人が教えてくれた。 高校時代の私は「新しい美術」に夢中で、今さら石膏デッサンなどを描かなければいけない高校生活からいつも逃げたいと思っていた。この年になればたいした事ではないことも高校生にとっては大きな悩みだった、そんな時に「個展でもやっちゃえば?」と言ってくれた友達には今も感謝している。 言葉に出来ないパワーを持て余し、個展を開いていなければ、校舎の窓ガラスを割っていたかもしれなかった16歳の夏。 個展は展示として形になったけれど、納得出来ない事だらけで、私に新たな問題提起をする意味で良い経験になった。 その後も試行錯誤して色々な素材を使って制作し続けた。 20歳の頃、単純に描きたい物を描く事に原点回帰して友達の絵を描きだした。 周囲の友達を描く事は、プリクラのように自分自身を記録するための作業でもあった。 キャンバスに油彩で描かれた『Bright』のシリーズは最終的に100枚近くになった。 この作品は多くの人、普段美術には関心がないような人にも見てもらいたかったので、銀座の銀行のショーウィンドーに展示した。実際に多くの人が足を止め、色々な方から感想をいただいた。 大学を卒業して直ぐに新しい素材と出会った。 今回の作品にも使っている「墨」である。 きっかけは空海が自分と同じ年の頃に書いた、出家宣言文でもある『聾瞽指帰』を見た事だった。私には難しくて読めないのでジーと見ていた。読めないけれど何かすごいと感じた。初め、流石は三筆と言われる弘法大師、若い頃から凄いなと思っていた。 何回か見に行くうち、若き空海の意思を今に伝えるメディアに注目するようになった、紙と墨である。 1000年以上の時を経ても変わらずに意思を伝える墨の力に気が付いたのである。 私にとって墨は真新しい素材に見えた。 そして墨を使って絵を描きだした。 (きみじまあやこ) 「君島彩子のエッセイ」バックナンバー 君島彩子のページへ |
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