若宮綾子のエッセイ 第2回 「作品の流れ」 2010年7月26日 |
創ってみたくても、何をしていいかわからない。
トウシューズから絵筆に持ち替えてみたものの、何を描けばいいのかわからない。 お恥ずかしい話です。初期の頃の作品から‥。 ただ絵具と戯れる。絵具をたらしてみたり。このクラゲのようなものはなんでしょう? 私が出て来た所。「いったい私って何?」 といったところでしょうか‥。バックの線はたらたら流した絵具です。自分の重さに耐え切れず落ちてゆく絵具液をじっと見つめていました。 制作する事は自分探しの終わりなき旅。日々何を感じそれを咀嚼して形にしてみる。 そんなことしか出来ません。 生命の神秘みたい話は興味があります。どこから来て何処に行くのか‥。絵具をたらした上から何層も薄い絵具を何層も重ねています。その積み重ねは毎日稽古に励むダンサーとだぶります。コツコツ,コツコツと人は日々生活してるの 日々の経験の中からしか私は創れない。女性として生まれたからには命をつないでみたいと思いました。 出産を経験。 ぼんやりとした形をはっきりと描いてみようとさぐっていました。バックの部分は20回程いろんな色を重ねてあります。人の肌色には自身が創造出来ない程のはかりしれない時間がしみついた故の色です。そんな時間を感じる物を私は美しいと感じます。 私にとって形とは何なのか。 木の実、米粒、ホチキスの針‥。身の回りにあるものの中で美しいと思った物を集め続けています。 なぜ美しいと思うのか。それを探したくて仕方ない。 塗り重ねていた画面をやめ、パイル地の既存の布をパネルに張るだけ。布の織目にひっそりと隠れるように鉛筆で描いた小さな形。 色を重ねるという時間自体を見せてみたい。そこにやんわりと現れる形があったらなおいい。そんな方向性が漠然とありました。 パネルに30枚くらい薄い布を重ねて張る。 アイロン台の様にエッジが丸くなるのは重ねた時間の証。 それによって自然に出来た歪みが見つけたいのか?。 飯を食べる、洗濯をする、掃除をする、パソコンのキーボードを叩く。 何気なく過ごす中で、少し笑い、少し泣く。みんなこの身体がしているのです。 生活の中で石けんを実際に使い、丸く小さくなったものに何枚か布を張ってみました。生活の中で無意識に出来上がって行く石けんの形に魅せられて。 一日のうち、どのくらい家事をしているのだろう。その時間私は何を考えているのだろう。ふと、思い出すのは台所に立つ私の寡黙な母の姿。私に命をつなげた人。 そして今、私は娘に命を繋げ、その人の衣類を石けんで洗う‥。 衣類、食器、そして身体。使った石けんを石膏に型取りし、その次の日また使う。小さくなって使いにくくなった石けんは新しい石けんにくっつけて使う。形の変化はかた時も休まない時間現れ。毎日休まず稽古するバレリーナの身体ともリンクする。 洗われて緩やかな曲線をつくりだす石けんの形。時間が作り出した形。それは人骨の様でもある‥。 毎日の時間が生み出した形に「糸という軸」を通す。 それは立っている人骨のよう。でも「軸」がなければ崩れちゃう。身体も人生も。 私の軸って何なんだろう?帰る場所って何処かしら?家族?夫婦? やっぱり軸には「美しい」とは何かを探す作業。家族とともに。 家族って、社会の中の一番小さな集合体だったっけ‥ 骨。それは大きな時間の流れで出来た形。私の骨はどんな形だろう。持っているのに目で確かめられない。だから創造してみる。歪みながらも寄り添いすぎず、お互いを尊重して空間に存在する。例えば夫婦や家族のように。 解剖学系の造語に「home position」とあるそうな。骨の歪みなどが整った状態で「本来の位置」のことだそうです。本来=home=家=家族。時代によって家族の形も様々。 現代の家族の形ってどんなだろう。 用事のない日曜日。寝転んでテレビを観る夫。パソコンをする子供。台所に立つ私。それぞれが違う事をしながらも同じ居間という空間に存在する。 長くなってしまいましたが、作品ノートに記した言葉をたよりにコメントしてみました。作品の経緯を感じ取っていただけると幸いです。 (わかみやあやこ) 「若宮綾子のエッセイ」バックナンバー 若宮綾子のページへ |
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