ときの忘れもの ギャラリー 版画
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若宮綾子のエッセイ
第3回 「展覧会によせて」 2010年7月30日
 もともと絵画出身のせいでしょうか、空間の中に震える線というものを描いてみたいと思いはじめていました。私の過去の作品で例えると1997年あたりの作品のように、単色のバックに形が小さくあるような作品です。一見単色に見えるバックは何度も塗り重ねてあり、その重ねた「時間」がとても大切になります。そのバックが空間となるとその場所の個性を理解する必要が出てきます。


 地下鉄の人ごみをすりぬけ、容赦なく照りつける夏の日差しに耐えながら横道の階段をおりると思いがけない緑の中の木造の建物。重めの木の扉をあけるとチリンと来客を知らせるドア鈴の音。短いトンネル状の空間をぬけた所には大きな吹き抜けの部屋。壁いっぱいの窓から差し込むやわらかな日差しと木々の緑。むき出しの木の階段につられ頭をあげると、2階の事務所からはパソコンのキーボードを叩く音。高い天井には都会の喧噪を忘れさせる様なゆったり動く扇風機‥。


 この「ときの忘れもの」という画廊空間は、いわゆるホワイトキューブという四方を白い壁で覆われた画廊空間とはかなりかけ離れています。どちらかといえば画廊の人達の仕事をする息使いみたいなものがダイレクトに伝わり、そこに居る人や物たちが生き生きと見えて来ます。画廊というよりは、住空間に近いのでしょう。住空間の特徴は、そこに存在する人達の生き方や人に使われている物たちの臭いが伝わってくるのが特徴です。「ときの忘れもの」の画廊空間は「人気(ひとけ)」を感じるのです。
「人気を感じる」ということは見えない空気が震えているという事です。そんな目には見えない空気の震えを表してみたくて一階から2階へ繋がるような作品を創ってみようと思いました。
 空間という言葉はよく使われますが、私は「そこに居る人々や物達の持っている歴史という時間を含めての空間」というものを考えてみたいと思っています。作品をつくりながらその思いは一層強いものになって行きました。
 作品と人と物と光と音と、そこを訪れて下さった方々がコラボレイトして、重苦しい夏の中の一時の休息となりますように‥。


 ご高覧よろしくお願い致します。

(わかみやあやこ)

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若宮綾子
出品No.16
「rib」
2009年
若宮綾子
出品No.24
「clavicle」
2010年
若宮綾子
出品No.25
「untitiled」
2010年

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