渡辺貴子のエッセイ 第3回 「制作について思うこと」 2010年7月31日 |
学校に入ってからの思いがけない進路変更は想定外でしたが、
そこで学び、感じた事は、自分自身に大きな変化をもたらした上、 今でも制作の原点になっていると思えるのです。 器づくりを離れ、表現の境界線を取り去った時から、 土は、私自身を表現できる一つの素材へと変わっていきました。
日々生活していく中で、気付かぬうちに私の中に積もっていくもの。 それを再確認しながら吐き出していく。 土を積み上げて、ゆっくりと形にしていく作業は、 それとなんだか似ているような気がします。 卒業まで残り1年となった頃、卒業後の就職活動が頭をよぎり、 石膏型で食器を作る技術でも卒業制作をしました。 自由に粘土を積み上げて制作していく技術に対して、石膏型を作るには 事前に正確な設計図が必要で、土よりも石膏で作業する時間が多かったのです。 長い時間をかけて完璧な物を作るという作業も興味深く思えましたが、 大量生産用のデザインに近い仕事よりも、たったひとつの物を、感覚を 頼りながら表現する方が自分には合っているような気がしました。
頭で考えるよりも先に、理屈抜きで私の五感に訴えてくる、 シンプルな感覚は、私が制作する上で大切な要素なのです。 先日のオープニングパーティーでお会いした方が、 「作品を見ていると、どこかから音楽が聴こえてくるような気がします。」 と感想を言ってくれました。 こんな出会いがある時、制作を通して人とつながっていると実感するのです。
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