ときの忘れもの ギャラリー 版画
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◆第172回 根岸文子展 2009年3月13日[金]―3月28日[土]
根岸文子さんに聞く
個展開催に合わせ、根岸さんにインタヴューをし色々と伺いました
まず、子供の時のことから
Q:
幼少時代、絵に関心はありましたか?
根岸:ありました。祖父母が、歳を取ってから保育園で絵を教える仕事をしていたので、祖父母の家に預けられたときに一緒に保育園に行き、そこで絵を描くことが遊びでした。そういう環境にいたので、やりやすかったです。祖父母の家に色ペンが置いてあったので、それを分けてもらって、気に入って使っていました。普通にお姫様とかを描いていました。

Q:お祖父さんやお祖母さんから手ほどきを受けたのですか?
根岸:手ほどきを受けたというほどでもないのですが、高校受験のときに母にデッサンなどを教えてもらいました。高校からは美術の高校に行き、画塾にも一時期通っていましたが、そちらには行かなくなりました。

Q:女子美では、いかがでしたか?
根岸:楽しかったです!大学の版画教室だったので、朝8時頃から学校に行っていて、熱中してずっと銅版画を制作していました。でも、熱中していたわりに、コンテンポラリーの画廊などには行きませんでした。近代的なものの情報収集はしないタイプで、マイペースにしていたので、少し遅れていたと思います。傾向が、現代美術より近代美術が好きだったので、近代美術をもとにしていた気がします。

Q:画家を志した理由と時期を教えてください。
根岸:志したというか、画家になろうと決めた時期もないし、できることだけやってきたという感じです。卒業してから会社に就職しなかったことも理由のひとつだと思います。その意味では、画家を志した時期といえば、大学を卒業したときになるのでしょうね。画家になろうと思ったわけじゃないんですけど、スペインに行ってもうちょっと勉強しようと思いました。

Q:好きな画家は誰ですか?
根岸:大学時代はミロやタピエスが好きでした。ミロやタピエスのような抽象画が好きで、抽象画を描いていました。抽象画が身に合っていたのですが、描いているうちに自分は風景画を描いているという意識が沸いていました。抽象画なんだけど、実は頭のなかでは具象画になっている。なので、以前は具象画に興味はなかったのですが、だんだん興味が沸くようになってきました。
今は、三岸好太郎や岸田劉生が好きです。三岸好太郎は、シュールでミステリアスな雰囲気があり、岸田劉生はロマンチックでミステリアスな感じが好きです。

Q:卒業後、なぜスペインに渡ったのですか?
根岸:近代のスペイン画家のミロやタピエスが好きだったので、スペインに憧れたところがあります。
版画を続けようと思い、大学院に行く変わりにスペインに留学しました。
大学生の頃、留学したいという意思があってヨーロッパを旅行したときにスペインがいいなと思いました。もう一度ヨーロッパを旅行したときにスペインに行き、工房を訪ねました。そこで、ヘラルド・パリシオ先生に出会いました。先生においでと言われたので、留学するときに面接を受け、後任の先生となる三浦光雄先生の面接も受けました。留学してから、三浦先生の工房でアルバイトをしました。三浦先生は、版画工房を持っていて、仕事があると刷りを手伝いに行っていました。

Q:留学当初のご苦労などはありましたか?
根岸:言葉だけです。最初は語学留学をしました。
住むところは、少しだけ下宿し、その後はスペイン人とシェアして暮らしました。
食事も自分で作ったので、特に困りませんでした。

スペインでの活動について
Q:スペインでの制作活動はいかがですか?

根岸:学校では(版画を)作り過ぎていました。(笑)


Q:そのときの原版はどうされましたか?

根岸:捨てたのもあります。

Q:全部刷りましたか?
根岸:最初に制作した作品は刷りきれないのもありましたけど、その後の作品は全部刷りました。限定30部の作品などもあります。

Q:タブローを描き始めたのはいつですか?
根岸:スペインは夏休みが長くてつまらないので、三浦先生に、夏休みどこかおもしろいところはありましたか?と聞いたところ、三浦先生がスペインの北の方で絵画コースをやるから、それに申し込んだらどうかと言われ、夏の一ヶ月間参加しました。そこにはアーティストの集合施設がありました。そのときはキャンバスに慣れていないので、壁に描いていました。その集合施設に一人ずつアトリエが用意されて、そこの壁に大きい絵を描いては写真を撮って、また描き足して・・・というのを繰り返していました。何回も描き足して、毎日違う絵にしてその変化を写真に撮りました。その壁はそのまま置いてきました。学生時代だったので、あまり守るということに興味がありませんでした。その壁を白く塗って、次の人が使うんだと思います。
そうしているうちに、版画で新人賞を取ったので、小さい版画の仕事が入ったり、版画で私を知っている人が少し増えて、版画を買ってくれたりしたので、エディションしたりしていました。その中で、三浦先生は画廊も持っていたんです。その画廊に版画を委託で納入していたんですが、展覧会でもやってみない?と言われました。向こうでは、版画の画廊じゃないと版画の展覧会はやらないのですが、展覧会をきっかけにタブローをはじめました。そのときに、アルゼンチンの女性と奈良美智さんと私の3人展をやりました。「ギャラリー&エディション ギンコ」といって、結構良い画廊だったんですけど潰れちゃいました。
日本にいたときは、タブローが良いとか嫌とかではなく、タブローを描くという意識がありませんでした。版画をやっていたので思いもしませんでした。
私は、デッサンを描く方がすごく好きで、油絵の方は結構苦手なタイプでした。物を見るのに、デッサンだとよく理解ができるのに、突然油絵になるとそれが変わってしまう。絵の具と色の問題だと思うのですが。版画というのはデッサンに繋がることが多いので、それで版画を選びました。銅版画に向いていたのもそれが理由だと思います。ドローイングが良く描けました。
  
Q:タブローに描いたモチーフは、版画のモチーフといっしょだったんですか?
根岸:だいたい似たようなモチーフでしたね。抽象でした。

絵のモチーフなどについて
Q:スペインに行って、作風など変化はありましたか?
根岸:日本にいたときから、自分が風景画を描いていることに気がつきだしていました。筆跡を残したり、習字的なものが多かったのですが、スペインに渡って、同じモチーフを繰り返したり、もっと軽い感じになり、「形」の方に移動していきました。
スペインでは、版画家はほとんどいなくて、版画というのは技法の一つで、アーティストがいて、版画をやったり、油彩を描いたり、彫刻をしたりという人がほとんどです。スペインでも版画教室に通っていましたが、絵を描くチャンスがあって、それから絵を描き始めました。

Q:モチーフについて教えてください。どんなものからインスピレーションを得ますか。また、どうして、そのモチーフを描こうと思ったのですか?
根岸:
モチーフは風景です。海や山、川など自然を描いています。最近は、人間の体の一部を風景に加えたりしています。体には小宇宙みたいな感覚があります。小人になっていくと、鼻は山だったり、その山を越えると目があったりする。人間的なこだわりよりは、風景の一部として意識しています。目がどういう意味だからとかではなく、風景の一部として入れています。
舌ベロは特別です。ベロは、一度夢を見ました。嘘をついている人のベロが出て、キラキラ光っていてピンクですごく綺麗だったんです。それが忘れられなくて、モチーフにしたいなと思ってこだわっています。それ以来、夢からモチーフを取ろうと思って夢日記を書こうと思っていますが、舌ベロを超えるような夢は見ません。(笑)

Q:波紋についてはいかがですか?
根岸:
波紋は水のイメージです。私は結構内向的な性格なので、イメージを出すときに奥深くにいくとすごくいい気持ちになります。海の下に潜るとか、そういう感覚を味わいたいと思うのです。そういう想いで波紋を描いたりすると、描いているときの想像力で、自分でいい気持ちになるところへ入れる。青も同じような感覚で、青色を見ていると、違う世界に移動しやすい。そういう意味では、「波紋」は、別の世界への入り口のようなものです。
「SOKONASHINUMA」というタイトルもエンドレスという意味です。下に行くと言っても、自分で何かを探そうとして落ち込んでいるわけではないので、そういう意味で底がない。追求しているわけではなく、ただ下に潜りたい。
昔、心理学者の先生が書いた本で、子供の心理学教室みたいなものがあって、内向的な子と外交的な子の傾向が書かれていて、内向的な子の傾向が、私が描いているものにぴったりなことに気が付き、共感を覚えました。それからもっともっと池などを描くようになりました。
内向的な子は、自分が心地よいところにいくために、池に行き、舟に乗り、自分しかわからない道のりを辿り、自分の島に行き、合い言葉を言って鍵を開け、そこが自分の隠れ家になったりするんですって。内向的な子の、ひとりだけの空間を見つけるところに共感しました。
今回の「pink no planta peligrosa(ピンクの危険な植物)」のシリーズも、夢から得たものです。危険な葉っぱを描いています。昔からやっていることですが、夢を吸うような植物とか、ちょっと恐いような植物を描きたいなと思っていて、シリーズで描いています。これは、日記的に、スケッチ的にしたかったので、淡くて、一つひとつ軽くて、一時間に一作品描いたような雰囲気のものにしました。
  

Q:下書きはしますか?
根岸:
この「pink no planta peligrosa」のシリーズは、下書きと言うより、メモのようなものを元に描いています。そのままではなく、あくまでヒントのようなものです。他の作品は、下書きはしていません。直接描き始めます。

Q:繰り返し出てくるモチーフが言語のようなもので、それで物語を書くような感じですか?
根岸:
そうですね。

Q:ここまで描いたら終わりというのがありますか?
根岸:
あります。原稿用紙のマスが一杯になったらもう1字も書けないのと一緒で、ここまで描いたら、もうこれ以上描けないというふうになります。

根岸さんは、成り行きで画家になったというような言い方をなさっていましたが、実際は、かなり明確な意思をお持ちだったのだろうとお話を聞いていて感じました。今回のVACA展出品で、またひとつステップを上がったと思います。今後の展開がまた楽しみな根岸文子さんです。


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"FUUN YUUSHI"
2008年
アクリル・板
130.0×388.0cm
サインあり
"pink no planta peligrosa A"
2008年
アクリル・板
30.0×20.0cm
サインあり
"NUMA GEMEROS"
2008年
アクリル・板
46.0×38.0cm
サインあり
"YUME NO FUKEI "
2008年
アクリル・板
46.0×38.0p
サインあり
"ME NO ARU FUKEI"
2008年
アクリル・板
52.0×38.5cm
サインあり
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