「ピラミッドの中の写真集―イリナとの出会い―4」
イリナが何よりも喜んだことは、未発表の作品も出品することでした。彼女を一躍有名にした、実の娘エヴァの写真だけではなく、その後の作品で、私が「猫のシリーズ」と名付けたニューヨークでの作品です。
それは、モダニズムにあふれたセンスの良い写真で、ヘルムート・ニュートンやセシル・ビートンなどを思わせるファッション写真のように美しく、アダルトな感覚の作品です。しかも、エヴァのシリーズの多くがイリナの寝室で撮られたのと違い、猫のシリーズの多くは外光を取り入れ、主にニューヨークで撮られたものです。それでも登場する女性の多くが、どこかオピュームの匂いがするのはなぜでしょうか。イリナの写真は本当に不思議です。また、このような作品に登場する女性の印象と、実の娘の裸を公開した母親像とが結びつき、一時フランスでは不道徳な母親ととらえられた原因なのです。それは、多くの誤解に満ちています。後々このことについてはお話ししなければなりません。イリナの真実を多くの方に知っていただきたいからです。それは、同時に、ヌードとは何か、女とは何か、写真とは何かの一つの答えになるからです。
仕事の話を一気に伝え、快く了解していただいたことで、やっと緊張が取れ、私はあらためて部屋の調度品や彼女のかわいがっている猫に目を向ける余裕が出てきました。以前、雑誌で見た金子國義さんの部屋にとてもよく似た雰囲気で、有機的なものや無機的なもの、いろんなものが雑然と置かれ、不思議な安心感のある雰囲気をかもしだしています。室内には観葉植物もあり、窓からは午後の穏やかな光りが降り注ぎ、古めかしいフローリングの床と、細かい模様の絨毯の上には、大きなシダがその影を落とし、揺らいでいました。
私は、やっと雑談ができるぐらいにリラックスをして、不躾にも彼女に質問をしはじめました。現在のエヴァのことや近況についてです。そんな中、私が気になったのが、床に置いてあったガラスの箱でした。新聞をふたつに折ったほどの大きさのある箱で、四方には猫足が付いていました。そして蓋には大きなピラミッドが乗っていたのです。しかも、そのピラミッドは、偶然にできたヒビによって芸術となっていました。デュシャンの「大ガラス」にできたヒビのように、それはとても芸術的でした。「イタリアで10部限定で販売した写真集です。オークションでも滅多に見ないもので、大変高価な物ですよ。」とイリナは説明してくれました。続けて、「ピラミッドに住むのが夢なのです。」と真顔で言うのです。そうして、なぜか、私は恥ずかしげもなく「夢を叶えてあげたいです。」と言ってしまったのです。
こうして限定本を作ることと、CD-ROMを作ることが決まったのです。イリナの夢のために。(つづく)
2008年3月8日(いむらはるき)
イリナ・イオネスコ
「Porte Doree 4」
Printed in 1998
Gelatin Silver Print
14.4×9.8cm
Ed.10 Signed
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イリナが何よりも喜んだことは、未発表の作品も出品することでした。彼女を一躍有名にした、実の娘エヴァの写真だけではなく、その後の作品で、私が「猫のシリーズ」と名付けたニューヨークでの作品です。
それは、モダニズムにあふれたセンスの良い写真で、ヘルムート・ニュートンやセシル・ビートンなどを思わせるファッション写真のように美しく、アダルトな感覚の作品です。しかも、エヴァのシリーズの多くがイリナの寝室で撮られたのと違い、猫のシリーズの多くは外光を取り入れ、主にニューヨークで撮られたものです。それでも登場する女性の多くが、どこかオピュームの匂いがするのはなぜでしょうか。イリナの写真は本当に不思議です。また、このような作品に登場する女性の印象と、実の娘の裸を公開した母親像とが結びつき、一時フランスでは不道徳な母親ととらえられた原因なのです。それは、多くの誤解に満ちています。後々このことについてはお話ししなければなりません。イリナの真実を多くの方に知っていただきたいからです。それは、同時に、ヌードとは何か、女とは何か、写真とは何かの一つの答えになるからです。
仕事の話を一気に伝え、快く了解していただいたことで、やっと緊張が取れ、私はあらためて部屋の調度品や彼女のかわいがっている猫に目を向ける余裕が出てきました。以前、雑誌で見た金子國義さんの部屋にとてもよく似た雰囲気で、有機的なものや無機的なもの、いろんなものが雑然と置かれ、不思議な安心感のある雰囲気をかもしだしています。室内には観葉植物もあり、窓からは午後の穏やかな光りが降り注ぎ、古めかしいフローリングの床と、細かい模様の絨毯の上には、大きなシダがその影を落とし、揺らいでいました。
私は、やっと雑談ができるぐらいにリラックスをして、不躾にも彼女に質問をしはじめました。現在のエヴァのことや近況についてです。そんな中、私が気になったのが、床に置いてあったガラスの箱でした。新聞をふたつに折ったほどの大きさのある箱で、四方には猫足が付いていました。そして蓋には大きなピラミッドが乗っていたのです。しかも、そのピラミッドは、偶然にできたヒビによって芸術となっていました。デュシャンの「大ガラス」にできたヒビのように、それはとても芸術的でした。「イタリアで10部限定で販売した写真集です。オークションでも滅多に見ないもので、大変高価な物ですよ。」とイリナは説明してくれました。続けて、「ピラミッドに住むのが夢なのです。」と真顔で言うのです。そうして、なぜか、私は恥ずかしげもなく「夢を叶えてあげたいです。」と言ってしまったのです。
こうして限定本を作ることと、CD-ROMを作ることが決まったのです。イリナの夢のために。(つづく)
2008年3月8日(いむらはるき)
イリナ・イオネスコ
「Porte Doree 4」
Printed in 1998
Gelatin Silver Print
14.4×9.8cm
Ed.10 Signed
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