山田陽のエッセイ「FRESH BREW NEW YORK」 第3回 2011年3月30日 |
鳴り響く救急車の音、轟音をたてながら空を飛ぶF14戦闘機。
それらが、ニューヨークでテロがあった夜の記憶。 2001年9月11日のテロから、早くも10年が経とうとしています。 その頃、まだ写真も始めていなかった私は、自分探しの最中で、ただ毎日を英語もままならず試行錯誤して過ごしていました。 そこに起こった大惨事。 気持ちの整理もつかぬまま、その頃アルバイトをしていたレストランへ仕事をしに出掛けたのがテロから2日目。 正直、毎日生活するのもきつきつだった私にはテロが起こったからといって、仕事を休む余裕はありませんでした。 その店から30分も歩けば辿り着くグランドゼロ。皆の気持ちは、すべてそこに向いていました。 日常生活はキープしたし、もちろん募金など自分ができる事はしました。 でも形にはならないもやもやが、心の奥にどすんと座っているのを毎日感じていました。 しかしながらその重みとは別に、街全体の雰囲気が変わっていくのも感じ始めていました。お店や道などで会う人たちとの会話、街のかしこで行われるボランティア活動など、皆が一つの問題に対して自分なりに活動をしている姿がありました。 そんななか、その頃始めたヨガに一層のめり込んだことを覚えています。いつもは自分の呼吸と向かい合うためのヨガのクラスも、毎回クラスの始めと最後に、皆で惨事に対しての願いを祈り、そして皆で会話をしました。その頃、自分の家族を持っていなかった私には、とても大きな心の支えになりました。 それはきっとどんな事でも良かったのだと思います。 都会で生活していく人間が一番保ちにくい、人との触れ合いを生む場を 運動をする一環の中で、考えを交換し共有出来たという事が、 あの状況の中において自分にはとてもしっくりいったのだと思います。 2011年3月11日、東日本大震災。 NY時間の真夜中に起こっていた地震に私は全く気づかず、 第一報は朝、インターネットで見たニュースの記事でした。 飛び起き、日本の家族へ連絡をしました。 一切電話は通じず、メールを姉に送り、数時間後、やっと電話がありました。 家族の無事は確認できましたが、そこから先は次から次へ新たな被害がメディアから溢れ出てきました。 遠くにいて実感できないまま、情報によって頭だけが大きく膨らんでいきました。 何か自分にも出来る事はないか。 募金やボランティア活動は自分の出来る範囲の事をしていきますが、それ以外の事で何かないかと思った時、テロのときに自分が経験して学んだ気持ちを伝えられればと思い、下に書いてみます。 誰かを攻めても、文句を言っても今ある現状は変わらないという事、 そこでいがみあったり、責め合っても先に進めずお互いの助け合いにならない。 そんな時、日常をキープする事の大切さを実感しました。 もちろん非日常的な大災害の中でそんな事を考え、実行する事は難しく、何を言っているんだと思われるかと思いますが、普段、皆さんが淡々とこなしている事をやることにより日常が生まれれば、少しずつ街全体が通常に戻っていくはずです。 そのやる事には意味があるとか、ないとかはあまり関係ないと思います。 これらの事は、現状を忘れるための事ではなくて先に進むための大きなでも小さなステップになってくれるはずです。 実際、10年前に途方に暮れていた私の心はだいぶ先を見るようになっています。 最後ですが、 今もなお、被災地において現状もままならずに生活なさっている方達が、 一刻も早く通常の生活に戻れることができるよう心から願っております。 そして今回の震災により亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りいたします。 (やまだ あきら) PS:私も参加させていただいているファッションデザイナー60人が参加するチャリティーセールのお知らせです。 http://www.fashiongirlsforjapan.com/ 4月2、3日にNYにて開催ですので、お越しになられるのは難しいかと思われますが。今後も何か私なりに活動していきたいと思っております。 その際にはお知らせできましたら幸いです。 ■山田陽 Akira YAMADA 神奈川県川崎市に生まれる。文化服装学院でファッションデザインを学ぶ。1998年渡米。ニューヨークで6年間ブティック、レストラン、プライベートパーティのために高級フラワーアレンジメントを提供するフローラルデザイナーとして活躍。2004年その創造的な関心は「写真」に向けられた。 ポートレートやルポルタージュが『ヴォーグニッポン』や『ヴォーグチャイナ』、『マダムフィガロ』、『ハーパースバザージャパン』、『ウィメンズウェアデイリージャパン』、『カーサブルータス』、『メンズノンノ』、『ギンザ』、『ポパイ』に掲載される。 ポートレートやルックブック(スタイル見本)を撮影し、「デレク・ラム」や「3.1 フィリップ・リム」、「トッズ」、「バンドオブアウトサイダーズ」などのファッション会社と仕事をする。 ファッションやデザインをあらためて学んだことで、どんなものにも美しさを見出し、洗練されたイメージを創り出すようになる。記録や探検、そして、他の文化からインスピレーションを得るために世界を旅する。現在、ニューヨークを拠点に活動。 作者公式サイト http://www.akirayamada.com/ 「山田陽のエッセイ」バックナンバー 山田陽のページへ |
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