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建築を訪ねて

異議あり! ホテルオークラの建て替え
2015年03月


セゾン文化を支えた大書店「リブロ池袋本店」が7月末で閉店というニュースに続き、美術出版社が3月4日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請したというニュースにもっと驚きました。
1905年(明治38年)創業の老舗出版社として100年以上の歴史をもち「美術手帖」はじめ雑誌、画集、美術書、辞典など数多くの出版を行ない、2014年3月期の売上は約12億800万円だったという。負債は19億円。
日本の美術界の低迷を反映しているというのは言いすぎでしょうか。
この事態に誰も大騒ぎしないことに、オールドボーイの亭主はため息をつくばかり。

時代の流れに逆らえないのか、残念なことばかり続きます。

世界の首都で東京ほど起伏の多い(山あり、谷あり、坂ばかり)都市はない。
大岡山、自由が丘、渋谷、四谷、青葉台、鶯谷、赤坂、富士見坂、団子坂、・・・・・・地名をあげたらきりがない。
大学に入って地下鉄(丸の内線)に乗ったら、地上を走っているので驚いた覚えがある。地下鉄が地上を走るなんてのも東京ならでは。
ロンドンなど世界の大都市、首都は真っ平らに決まっているのに、東京だけ例外。
世界の常識からいえば大阪こそ日本の首都なんですが・・・・
維新の元勲たちの東京遷都はそう考えると凄い決断でしたね。

虎ノ門も坂と丘の街。
そこに建つホテルオークラ(1962[昭和37年]5月20日開業)に亭主はことのほか思い入れがある。

谷口吉郎の設計による本館メインロビーは日本はもとより世界でも有数の美しさと静粛な雰囲気をたたえている。
戦前を代表するのはライト設計の帝国ホテルだが、戦後の公職追放により帝国ホテルを追われた大倉財閥の二代目大倉喜七郎が「帝国ホテルを超えるホテル」との執念で建設したのがホテルオークラだった。
国内屈指の工芸家たちへ日本の美を以って諸外国の貴賓を迎えるホテルの理念を熱心に説いて協力を得、設計を担当した谷口吉郎、小坂秀雄、清水一らはホテルの随所に「和のデザイン(日本の紋様)」をあしらった。

1980年代末期、亭主は浪人時代を経てフランス人の経営する会社に勤めたのだが、ホテルオークラの直ぐ脇の急坂に沿ってその会社はあった。
美術館の若い学芸員や編集者が来て打合せになると、その急坂を突っ切って駐車場からオークラの本館に入り、いくつかあるレストランで必ずカレーライスで接待した。一番安いからである。
1989年(フランス革命200年の年)東京ステーションギャラリー他で開催した『エッフェル塔 100年のメッセージ【建築・ファッション・絵画】』展のカタログの最終校正のときはオークラのツインを幾日か借りて、ダンボール何箱も運び込んでの徹夜作業だった。
オープニングにはポンピドゥーセンターの総裁だったジャン・マウーさんはじめフランスの美術館関係者20人ほどをお招きしたのだが、お茶の接待をして喜ばれたのもオークラ本館にある茶室聴松庵だった。
疲れたり、落ち込んだりしたときは、ひとり本館ロビーの椅子に座り込み時間を過ごした。あんなに静かで心の落ち着く空間はない。

それなのに(涙)、今年9月より建て替え工事に入るという・・・・・

こんなに素晴らしい空間で、まだまだ使えるのに、残念、無念、何とかならないものでしょうか。

ときの忘れものは開廊以来お世話になっている顧問の先生方(弁護士、公認会計士)とスタッフたちの新年会を毎年2月に開いているのですが、今年はスタッフ全員にオークラ本館の空間を体験してもらいたくて、なけなしの財布をはたいて小宴をはりました。

写真では決してその良さを味わえない空間があります。
谷口吉郎による本館メインロビーの魅力はそこに実際に身をおいてみなとわかりません。

亭主が美術品設置に参加した近くの「虎ノ門パストラル」は既になく、オークラもなくなってしまうなんて・・・・

以下はスタッフによる建物探訪記です。

エントランスを入ると格式高く、重厚感のある雰囲気が漂っています。

 
ロビーは贅沢すぎるほどの広々とした空間に、椅子とテーブルがお花のように距離をあけて拡がっています。


数珠のように連なった照明がとっても綺麗です。

 
客室の廊下の模様もさまざまで、

天井の照明も細かいデザインが施されています。


ブレてしまいましたが、織物が埋め込まれている壁は芸術品ですね。


お花のような形のドアノブもかわいらしく、


エレベーターまでもデザインが施されています。


食事の後にみんなで記念撮影。顔が米粒ほどにしか写らないほどこのロビーは広いのです。
日本の美しさがたくさん詰まったホテルオークラを壊しちゃうなんて勿体なさすぎですね。。。




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