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建築を訪ねて

磯崎新のドローイングと建築
2015年11月


ただいま開催中の「建築家のドローイング展」の出品作品より、本日ご紹介するのは、DMにも使ったフランク・ロイド・ライトのドローイング(水彩)です。
建築家のドローイングは数々あれど、20世紀の巨匠たちの中で最も希少で高額なのがライトです。
ライト自身<紙の上の建築>の力を確信しており、伝説によればタリアセンのスタッフたちに「図面、ドローイングなど断片にいたるまで捨ててはならない、それらが君らの孫の代まで食わせてくれる」といったとか。有名な第一作品集ヴァスムート版への異常ともいえる熱意(その費用の大半を自己負担した)を思えばそれも納得です。


フランク・ロイド・ライト Frank Lloyd WRIGHT
《Gerts Walter, Residence》
1905
Watercolor and ink on paper
40.0x74.0cm

《Gerts Walter, Residence》はライトの全作品集第一巻263ページに掲載されている初期のプレイリースタイル(草原様式)による住宅のプロジェクトです。
この水彩作品の旧蔵者が語る推測によれば、ライトがしばしば日本を訪れていたころに自ら将来し、浮世絵の購入資金を捻出するために日本で売ったのではないか。また画面には水をかぶった跡がありますが、それはチェニー夫人との不倫スキャンダルにまみれヨーロッパ逃避行から帰国した1911年に起こったタリアセンの使用人による放火・殺人事件のときに蒙ったダメージではないか。二つとも確実な証拠があるわけではありませんが、推測として妥当なものでしょう。

フランク・ロイド・ライトの建築

[ソロモン・R・グッゲンハイム美術館]
1959年竣工
アメリカ、ニューヨーク市
撮影:尾立麗子

ニューヨーク市マンハッタン区アッパー・イースト・サイドにある近現代美術専門の美術館。
アメリカの鉱山王・ソロモン・R・グッゲンハイム(1861-1949)がコレクションする現代アートを収蔵しており、美術館は1937年に財団として設立。
1943年にライトに設計が依頼され、ライトは翌年に建築設計案を作成しますが、工事に取り掛かるまでに紆余曲折があり、創立者グッゲンハイム没年の1949年にようやく設計案が承認され、建物の竣工までにはさらに10年の歳月を要しました。完工したのは1959年、ライトの死後半年後です。
「かたつむりの殻」とよく形容される螺旋状の構造をもったこの建築物は、中央部が巨大な吹き抜けになっていて、見学者はエレベーターで建物の最上部に上がり、螺旋状の通路の壁面に掛けられた作品を見ながら順路を進むうちに自然に階下へ降りるようになっています。正直、見るほうも飾る方も不安定、展示には難しい空間です。
この一風変わった空間で「今までで最も美しい展示が実現」したと絶賛されたのが2013年の「具体展」でした。吹き抜け空間には元永定正の色水の入った透明な袋が吊るされ、元永の名を高らしめたのでした。


[自由学園・明日館]
1921年竣工
東京
撮影:綿貫不二夫(修復前の撮影)

自由学園明日館(みょうにちかん)は、1921年(大正10)、羽仁吉一・もと子夫妻が創立した自由学園の校舎としてライトの設計により建設されました。
帝国ホテル設計のため来日していたライトの助手を勤めていた遠藤新が羽仁夫妻をライトを紹介し、夫妻の教育理念に共鳴したライトは、「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」という夫妻の希いを基調とし、自由学園を設計しました。
空間を連続させて一体構造とする設計は、枠組壁式構法(2×4構法)の先駆けとの見方もあります。木造で漆喰塗の建物は、中央棟を中心に、左右に伸びた東教室棟、西教室棟を厳密なシンメトリーに配しており、ライトの第一期黄金時代の作風にみられる、高さを抑えた、地を這うような佇まいを特徴としています。
老朽化が激しく一時は存続が危ぶまれましたが、1997年(平成9)に国の重要文化財指定を受け、1999年(平成11)から2001年(平成13)にかけて保存修理工事が行われ、貴重なライトの遺作として面目を一新しました。
因みに亭主たちは保存修復のための解体中の明日館にも伺って撮影しています。
それにしても帝国ホテルが取り壊されてしまったのは返す返すも残念ですね。



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