瑛九 Q Ei 『花びん』 7.6×5.3cm エッチング 自刷り(部数は1部乃至数部) 自筆サイン、及び年記あり |
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瑛九の銅版画に関しては、今までたびたび言及していますが、画商として作品を取り扱う場合には以下のような注意点に留意しています。 イ)それが作家の生前の自刷りか、または没後の後刷りなのか。 (リトグラフには後刷りはありません、念のため) ロ)生前の自刷りだとして、それには自筆サインが入っているか。 それともスタンプサイン(恐らく没後に遺族または瑛九の会によって捺された)か。 または、作品の裏に都夫人の署名が記入されているか。 ハ)その作品が文献に掲載されているか。 今回、ご紹介する作品は、瑛九の銅版画の中でももっとも小品と思われる《花びん》という作品です。上記の注意点に基づいて点検すると、 イ)間違いなく、作家の自刷りです。 ロ)自筆のサインと、年記(53)が鉛筆で記入されています。 ハ)瑛九銅版画の基本文献としては(正確なレゾネがないので、漏れもあるのですが)以下の三つがあります。 1)没後に都夫人が編集した《私家版の銅版画目録》 (1961年、写真アルバム形式、229点収録、ただし重複あり) 2)南天子画廊発行の没後最初の後刷りの際の《瑛九原作銅版画集総目録》 (1969年、50点収録) 3)林グラフィックプレス発行の《瑛九銅版画 SCALE T〜SCALE X目録》 (1983年、278点収録。同社が1974年から1983年にかけて行なった大規模な後刷りの記録) 瑛九の制作した銅版は約350点と推定されますが、2)と3)は重複せず、つまり上記三つの文献すべてに重複掲載されている作品はありません。当該《花びん》は1)、2)には収録されておらず、3)に以下のようなデータとともに収録されています。 No.168《花びん》 1952 7.6×5.3cm エッチング 自刷りなし edition60 1983 この《花びん》という作品は、<都夫人からアトリエに保存されていた原版を借りて1983年に限定60部後刷り>されたわけです。 問題は《自刷りなし》という表記ですが、<自刷り作品は全く存在しない>とも、<アトリエに自刷り作品は残っていなかった>とも両方の意味に読めるのですが、少なくとも今回現実に自刷り作品が出てきたので、正確ではありませんね。 次に、《花びん》という題名(タイトル)ですが、これも《自刷りなし》という表記から考えると瑛九がつけた題名ではないことがわかります(原版に《花びん》と記載されていたとは考えにくい)。恐らく、原版から後刷りした際に林さんが都夫人と相談してつけた題名であろうと推測できます。 私は、1)の《私家版の銅版目録》について都夫人に詳しく製作(編集)経緯を伺ったことがあるのですが、作品に題名がない(不明な)場合には《私がつけました》とおっしゃっていたので、上の推測はそう的外れではないでしょう。 自刷り作品には1953(昭和28)年を示す《53》という数字が瑛九自身によって書き込まれています。これも3)に記載されたデータ《1952》年と異なります。もちろん、原版が制作されたのが1952年で、この作品を刷ったのが1953年だったということはあり得るわけで、3)の記載が一概に間違いだとはいえないでしょう。 没後半世紀たっても、こういう風に新たな発見がある。瑛九ファンの皆さん、市場にはまだまだ眠っている作品がありますよ! ともあれ、将来どなたかの手によって、完璧な銅版のレゾネが編集される折には、ぜひ自刷りがあったことを記録してもらいたいですね。 もしかしたら、この作品(花びん)は世界にただ一枚の《作家自刷り作品》かも知れません。ぜひコレクションに加えてください。 |
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