ときの忘れもの ギャラリー 版画
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フォーゲラーを巡って 木村理恵子
第3回 2010年2月26日
このようなフォーゲラーに対して、1910年代初めに逸早く注目した日本人たちがいた。『白樺』同人である。柳宗悦は、ヴォルプスヴェーデで名声をとどろかせていた彼の版画の展覧会を開催したいと考え、そこからなんと文通に発展したのであった。そして、後に雑誌『白樺』が日本で初めてフォーゲラーを紹介することになった。ヴォルプスヴェーデの芸術家コロニーへ寄せる興味のほどがうかがえる出来事だ。
1910年4月に雑誌『白樺』を創刊した同人たちには、周知のとおり、柳宗悦のほか、武者小路実篤や志賀直哉などがいた。彼らの活動は雑誌のみにとどまらない。特にフォーゲラーとの関連では、『白樺』が主催した美術展について触れないわけにはいかないだろう。
1910年に開催された第1回展「白樺社主催 南薫三・有島壬生馬滞欧記念絵画展覧会」において、すでに同人たちの手元にあったフォーゲラーの銅版画3点が展示されている。柳が最初にフォーゲラーにあてて直接書簡を書き送ったのは、その翌年のことである。それは、個展を開催したいので、肖像写真を送って欲しいという内容であった。その間に開かれた第2回展となる「泰西版画展覧会」でも、ヴォルプスヴェーデの芸術家たちとともに、フォーゲラーの作品14点が展示紹介されたという。
そうこうするうちに、思いがけず、フォーゲラーから返事が届いた。柳や『白樺』同人たちの興奮ぶりは想像に難くない。しかも、日本の「造園術」に関する書物と自作を交換しようという提案までなされ、版画作品が送られてくるのである。喜んだ同人たちは、同年12月号を「フォーゲラー号」として刊行し、いよいよ展覧会を準備する。この特集号にはフォーゲラーから寄せられた書簡の原文と訳文が掲載されたほか、柳によるフォーゲラー論などと銅版画7点の図版が掲載されている。今回の展覧会に出品される《》は、まさにその口絵で紹介されたものだ。
そして、翌1912年2月の白樺社主催の第4回展で、ロダンの彫刻3点とともに、フォーゲラーから送られた銅版画のうち38点が展示され、一部は販売もされた。
その後もフォーゲラーとの交流は続き、今度は柳の『白樺』のマークをデザインして欲しいという要望に基づいて、まもなく素描が送られてくる。それは、1912年の3巻10号から12号までの『白樺』表紙と4巻全号の裏表紙に繰り返し使用されたものである。
『白樺』大正2年1月号
裏表紙
ハインリッヒ・フォーゲラー
『白樺』大正2年1月号
表紙
バーナード・リーチ

今年は『白樺』創刊からちょうど100年にあたる。それを記念して、昨年、国内各地を展覧会「白樺派の愛した美術」が巡回していた(京都文化博物館など)。『白樺』は、個性を尊重し、生命主義に基づく思想を背景に展開した文芸活動であり、熱心な西洋美術の紹介者としても圧倒的な存在感を示したが、そのことが再認識できる好企画であった。
そして、この機会に、100年前の日本人の先見性に思いを馳せながら、フォーゲラーの芸術世界を味わってみてはいかがだろうか。
(きむら りえこ/栃木県立美術館主任学芸員)

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