フォーゲラーを巡って 木村理恵子 第4回 2010年3月1日 |
19世紀から20世紀初頭に形成されたヨーロッパ各地の芸術家コロニーのなかでも、ヴォルプスヴェーデが日本で比較的よく知られているのは、詩人リルケの存在もさることながら、既述のとおり『白樺』同人たちがフォーゲラーに注目したことが大きいだろう。
大正時代に花開く生命主義は、反アカデミズムを出発点とするヴォルプスヴェーデの芸術家コロニーの姿勢に共鳴した。その行動力と熱心な吸収力には驚かされる。それゆえ、日本の近代を再考する気運の高まりのなかで、フォーゲラーやパウラ・モーダーゾーン=ベッカーの回顧展が日本で相次いで開催され、西洋近代を改めて見直そうとする機会が増えたことは、ある意味で当然の流れといえる。日本の近代が西洋の何に共鳴し、何に興味を示さなかったのか、それは今後も意味のある問いかけであり続けるだろう。 フォーゲラーのユートピア思想は、必ずしも幸福な結果をもたらしたわけではなかったが、その独自な方向をめざした芸術は興味深い。造形的にはロマンティックなメルヘンの世界を展開させながら、後にはコミュニストとして政治性を強めた。しかし、そのユートピア思想ゆえに、短い時間だったとはいえ、ヴォルプスヴェーデの共同体における求心力ともなり得たのであろう。 そして、柳たち『白樺』の同人は、このようなフォーゲラーとヴォルプスヴェーデの芸術家たちに大きな共感を見出し、なんとしても日本で紹介したいという情熱を実現したのであった。 フォーゲラーの作品を通して、私たちは自分たちの足元の歴史を考えることができる。それは、100年前でさえも、決して海の向こうの遠い出来事ではなかったからである。 (きむら りえこ/栃木県立美術館主任学芸員) 参考文献: 『ハインリッヒ・フォーゲラー展』図録(東京ステーションギャラリーほか)2000−2001年 『パウラ・モーダーゾーン=ベッカー』展図録(宮城県美術館ほか)2005−2006年 『『白樺』誕生100年 白樺派の愛した美術』展図録(京都文化博物館ほか)2009年
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