ときの忘れもの ギャラリー 版画
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」
第4回 2013年5月1日

(画像をクリックすると拡大します)

まず目に入るのはアヒルの群れである。
だれに先導されることなく、一群となって、どこかにむかっている。
道はゆるやかな上り坂だ。

アヒルの視線になり、その先を追っていくと、一台の車が道の右手に停まっている。
くすんだ色の小型車で、走りはさほどよくない、かもしれない。

さらに視線をのばすと、男がいる。
柄模様のセーターを着て、毛髪を風になびかせ歩いている。

男のいる場所から道は下っている。
建物の屋根の低さでわかる。
つまり男は坂道の頂点にいるわけだが、
その横に尖塔のあることが、ここがてっぺんだ!
という感じをより強めているように思う。

ここで、もうひとつの事実に気がつく。
アヒルも、車も、歩いている男も、こちらにお尻をむけている、ということに。
なにかにむかえば、背後にものにお尻をむけずにいられない、ということに
この写真を凝視している「わたし」とて例外ではなく、だれかにお尻をむけているはずだ。

だが尖塔はちがう。円柱なのでそもそもお尻がない。
そしてその円柱の先には、おなじようにお尻のない気球が浮いている。
まさに「ぽっ」という感じで浮かんでいる。

お尻を見せている連中は、そのお尻のないものを追って坂をのぼっていく。
むかうべきところがなく、ただ大空に浮かんでいるだけの球形の物体は、
お尻のある我々を、魅了してやまない。
(おおたけ あきこ)

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●紹介作品データ:
鬼海弘雄
〈アナトリア〉シリーズ
「22羽のアヒルと冬の気球(トルコ)」

2009年撮影(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:29.1x43.6cm
シートサイズ:40.5x50.5cm
Ed.1/20
裏面にサインあり

鬼海弘雄 Hiroh KIKAI(1945-)
1945年山形県生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。山形県職員を辞して、トラック運転手、造船所工員、遠洋マグロ漁船乗組員など様々な職業を経て写真家になる。主な写真集やフォトエッセーに『王たちの肖像』(1989年 矢立出版)、『INDIA』(1992年 みすず書房)、『や・ちまた』(1996年みすず書房)、『東京迷路』(1999年 小学館)、『印度や月山』(1999年 白水社)、『しあわせ』(2001年 福音館書店)、『PERSONA』(2003年 草思社)、『東京夢譚』(2007年 草思社)、『ASAKUSA portaites』(2008年 STIDL.ICP)、『目と風の記憶』(2012年 岩波書店)などがある。
2004年に写真集『PERSONA』で第23回土門拳賞を受賞。

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大竹昭子 Akiko OHTAKE
1950年東京都生まれ。上智大学文学部卒。作家。1979年から81年までニューヨークに滞在し、執筆活動に入る。『眼の狩人』(新潮社、ちくま文庫)では戦後の代表的な写真家たちの肖像を強靭な筆力で描き絶賛される。都市に息づくストーリーを現実/非現実を超えたタッチで描きあげる。自らも写真を撮るが、小説、エッセイ、朗読、批評、ルポルタージュなど、特定のジャンルを軽々と飛び越えていく、その言葉のフットワークが多くの人をひきつけている。現在、トークと朗読の会「カタリココ」を多彩なゲストを招いて開催中。
主な著書:『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局)、『図鑑少年』(小学館)、『きみのいる生活』(文藝春秋)、『この写真がすごい2008』(朝日出版社)、『ソキョートーキョー[鼠京東京]』(ポプラ社)、『彼らが写真を手にした切実さを』(平凡社)、『日和下駄とスニーカー―東京今昔凸凹散歩』(洋泉社)、『NY1980』(赤々舎)など多数。

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