ときの忘れもの ギャラリー 版画
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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第15回 2017年06月10日
第15回 グラウビュンデンの大自然

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今回はスイスの、グラウビュンデン州の自然について少しだけ綴ります。


少しずつ暖かくなってきたこともあり、気晴らしにハイキングに出かけてきました。
ハイキングと聞くと車で1時間くらいかけて山へ行って。。と考えてしまいがちだったのですが、僕の住んでいるクールは山々に囲まれた谷あいの街で、バスに乗って10分登るともう山の麓に着きます。今回はクール(Chur)からトリミス(Trimmis)に向かうことにしました。

東京に住んでいた時は自然(樹々など)と暮らすのはいいなという感覚はあっても、それを実体験として強く持っていなかった、もしくは必要不可欠なものとして意識していなかったように思います。
大学のあった上野公園でベンチに座っておにぎりを食べる。そんな絵に描いたような典型的なランチを度々していたし、新宿御苑や井の頭公園へ出かけてのんびりとした休日を過ごしたりしていました。自然の中でひっそりと、しかし楽しく暮らすという"となりのトトロ的イメージ"には憧れさえ抱いていたのですが、理想として自分が思い描いていたイメージと、現実に自分の身の周りで考えるイメージには、かなりのギャップがありました。それはおそらく、みんなが"自然と暮らすっていうのはやっぱ良いよね"と言っていることに影響されて、"そりゃあ、もちろん僕も良いと思ってるよ"と当たり前の受け答えのように無条件に発言していた節があるからです。
簡単に言えば、僕は大自然と触れ合い暮らすことに、(既にそこにそういった環境があったとしても)100パーセント集中していなかったということです。今ようやく気が付きました笑。


よくよく考えてみると、そういった勘違いのような事柄は身の回りで頻繁に起こっています。。。起こっているのではないでしょうか? あまりに当たり前の言動や事柄で、それをなぜと考え直す時間が勿体無いとし、そうこうしているうちに日常となり慣習化し、気付けばどうしてこうしているのか忘れてしまって(もしくは初めから)わからないが、でもそうなっているからには最も自然な(ナチュラルという意味で)なことであるに違いないと自分に言い聞かせ、どうやら皆もそう思っているみたいだからそういうことにしておこう。。。その点にブレイクスルーをすることが、建築もとよりデザインの根底にあるはずです。

少し見苦しい自己弁護のようになってしまいました、話を戻します。

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駅からバスで森の入り口すぐの停留所までダイレクトに辿り着くことができるので、休日には多くの地元の人達を老若男女問わず見かけます。バス停から1分で山に入り少し歩けば、少し冷んやりする日陰の場所と、上方から射し込む太陽の光で暖かく心地良い場所とが混ざり合った、均衡の取れた森の状態に出会うことができます。日本ほど湿度が高くないため、真夏でも日陰にいると冷んやりと気持ちよく、風は少しだけ冷たく感じます。森林浴にはもってこいです。


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森の中には丸太を積んで乾燥させている箇所もいくつか見かけます。


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最近知人が、"建築家というのは世界のどこへ行ってもストレスと戦わなくてはいけない。それはきっと建築を建てるという行為自体が、実は人間の能力を超えている行為だからではないか"と話していました。この山の風景の中に立ち、そして10メートルは優に超える高さの木々を見上げると、なるほどそうかもしれない。自然の生命力は圧倒的であり、これと同じくらい、もしくは何倍もの高さの建築を数年で建ち上げてしまう。そしてややもすれば100年は持たせようとする。それはおそろしいくらいにものすごいことだ。とそれだけで改めて感動します。


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途中にある渓流で少し水浴びをして、足元にあった少し変わった石を拾い、そのうち1つはオニギリ石と名付けました笑。

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途中、子供連れや老夫婦を何度も見かけました。こういうところで幼少期を過ごすというのは一体どんなことなんだろう。自分もこういう所で育ったらどんな人間になっていただろう。と思わず考えざるを得ませんでした。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
1984年生まれ。日本大学高宮研究室で建築を学び、2008年東京藝術大学大学院北川原研究室に入学。
在学中にETH Zurichに留学し大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりスイスにて研修。 2015年からアトリエ ピーターズントー アンド パートナー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。
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