杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」 第22回 2018年01月10日 |
第22回 家具製作所
新年明けましておめでとうございます。 昨年はこのエッセイのおかげもあって、多くの人に声をかけていただく機会を得ることができました。二年前に書き始めた当時には、毎月たった一つのエッセイを綴ることがこんなにも労力がかかり、そして反響をいただけることだとは思ってもいませんでした。 トピックとして注目されるであろうことよりも、人に伝えるに値する事柄は何だろうと日々考えながら生活していることで、少しだけ身の回りの些細なことに気づくことができるようになってきたように思います。(そういう気がしているだけかもしれませんが。。笑) ギャラリー“ときの忘れもの“の皆さんへ、良い機会を与えてくれて本当にありがとうございます。 毎月楽しみに、もしくはまぁ一応目を通すだけ、ないし偶然見つけて読んでくれている人たちに少しでもスイスでの生活や建築事情を紹介できればと思っています。仰々しい文章ではなく、肩肘張らない感じで自分が面白いと思ったことを発信していこうと思っています。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。 今回は家具アトリエ訪問です。 シリーズ化しているわけではありませんが(笑)、第9回ではを、第17回ではを紹介してきました。今回はクールにある家具アトリエを紹介しようと思います。 このアトリエを運営する家具職人に出会ったのは、とあるショップにあった展示棚を見たことに始まります。(そのショップについては後日紹介することにします) オーナーが展示されているプロダクトそっちのけで展示棚を紹介してくれた時に、それがかなり大きいにもかかわらず十分な精度をもって、ビスや接着剤なしで組み立てられていることに驚きました。聞けばその家具職人は日本の木造建築における仕口を勉強しているらしい。今回に限らず、実はスイスで生活していると本当に多くの人が日本の木造建築とりわけ宮大工の仕事に興味を持って、個人的に書籍を取り寄せて勉強していることが多いことに驚きます。 そんな経緯があって、オーナーに家具職人を紹介してもらい彼のアトリエを訪問することになりました。 そのアトリエはクール(Chur)駅の西隣、Chur Westという場所そのままを表した駅のすぐ側にありました。この一帯は高層タワーとその足元に商業施設がある近年開発された地区であり、また以前から工場や倉庫、鉄工所といった大スパン空間の建物が多い場所と隣り合わせにあります。そういった地域には当然ながら幾つかの大規模なホームセンターがあり、作り手にとってはとても利便性の良いところです。 以前少しだけ紹介したように、スイスの職人教育は師弟制かつアカデミックです。自分で選んだ製作所に研修生として通い身体で仕事を覚える。と同時に職業訓練学校に通い頭で体系的に知識を得ます。 訪れた家具アトリエにも、遠くオランダから来た研修生が学んでいました。 アトリエでは職人自身とその研修生の二人で働いています。とはいえ自分でデザイン制作する単体家具に留まらず建築の内装(木仕上げ)も行うなど幅広く活動し、空間とも関係した提案をしているようです。 規模は小さいとはいえ必要な機材は一通り揃っていていい。と一緒に訪れた家具職人の同僚が感心していたように、空間の中に機械が適度な間隔をもって並べられ、切り出され運ばれた木材がどのように、そしてどういった順番で加工されて家具のパーツになっていくのか。それが説明なしで手を取るようにわかります。仕事ぶりを見る前に仕事ぶりがなんとなくわかってしまう。そしてまた、こういった設備のあるアトリエをいつも羨ましく見てしまう自分がいます。 先日ショップで見た家具(展示棚)の一部試作品です。日本の“尻ばさみ継“に近いカタチで楔を使って繋いでいます。使用しているのはクルミ材。楔はそのまま残って組み立て解体を容易にし、意匠的にもアクセントになっています。 これは木材をカンナがけのように薄く削る機械、見ると日本のメーカーです。削り取られたものは、薄いテキスタイルのように見えました。 この大きなテーブルはオーク材から、従来のテーブルのように天板に脚がついた構成ではなく、脚のフレームにテーブルの天板がはめ込まれているように作られています。二枚目の部材写真を見るとそれがよくわかります。そのため天板と脚フレームは数ミリの余白を残してルーズに嵌め込まれ、ビスや接着剤で固定されていません。完成品を外から見ると3ミリ程度に見える天板が脚のフレームから14mmオフセットしていて、その精度がテーブル全体に良い緊張感を生み出しています。 実はこれを初めて見た時には、この上にガラスか何かの天板がくるのだと思っていました笑。脚のフレームだけでできているようなテーブル。天板の存在感がないぶん、そこから生まれる浮遊感、軽やかさやエレガントな印象はあまり感じません。一方で見た目はスリムな割にがっしりとした堅強さを感じるのは僕だけでしょうか。4本脚の上部がカーブしてフレームと一体化していることで、がっしりとした重さを更に強調しています。 僕が一番いいなと思ったのは、実はこの工具のための棚です。職人本人は時間をかけずに即興的に作った。と言っているけれど、そのさらっとしたデザインがいい。下から上にかけて少しだけ傾きをもってフレームが組み立てられ、そこに横架材もしくは天板が載って全体を固定しています。上部の棚は傾きによって奥行きが出てきているので、そこに小さな木材の破片などを縦置きし、横架材から吊るされた部材にダボがついて、そこに小さな工具が引っ掛けられている。 全体のフレームは接着剤なしのダボで固定され、簡単に組み立て解体ができる。こんなシンプルな構成で実用的、かつ見た目に精錬されているのに驚きました。 見慣れたダボの大きさと縦筋の入った円柱のカタチが、可愛らしい子供用木製おもちゃのような印象を与え、そのことによって、全体がとても“簡単にできている“ことを強調されているかのようです。(子供のおもちゃというのは、実際にいつも“簡単にできて“います)。 それが一方でチープな(どこか安っぽい)印象に収拾されずに在るのは、数段の天板が置かれている間隔と、垂直材が上部で少しだけ削り取られ細くなることで生まれている華やかさがあるからではないかと僕は考えています。 少しずつ、いろんな作り手のところへ訪れて様子を伺っていく。こうした製作所、アトリエ訪問はデザインの幅を広げていくので、できる限り紹介する機会を増やしていこうと思っています。 (すぎやま こういちろう) ■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA 日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。 2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。 世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。 「杉山幸一郎のエッセイ」バックナンバー 杉山幸一郎のページへ |
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