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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第55回 2020年10月10日
熱気球にのって

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今回は番外編。先日近くの村で行われていた、熱気球フェスティバルについて綴っていこうと思います。


その近くの村というのは、フリムス (Flims)です。実はここ、スイス建築家の間ではよく知られた村。というのも、ヴァレリオ オルジアティ (Valerio Olgiati) の設計事務所があり、彼のデビュー作とも言えるイエローハウスもある。そして何より、その父親であるルドルフ オルジアティの手掛けた数々の住宅があって、村全体がルドルフ オルジアティの建築言語が広がったような、そんな様相をしているからです。

しかし今回に限っては、残念ながら建築の話は≪なし≫です。物足りない方は第5回の記事を参考にしていただきたいと思います。
僕も今日は、オルジアティ建築をバスで横目に通り過ぎて、熱気球を見に行きました笑。


熱気球についてほとんど何の知識もありませんでした。
大きな風船の中の空気をガスバーナーで熱して、中の空気の比重を外気よりも軽くすることによって上がっていく。。とここまで。
その気球がどうやって準備され、浮き上がっていくのか。一体どのくらいの大きさであるのか。それを見ることができました。

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まず驚いたのは、気球は思っていたよりも素早くセットアップできるということです。
バンにリアカーみたい荷台をつけて、それで運んできてしまう。勝手に大型トラックを想像していた僕は、肩透かしをくらいました。
ガスバーナーとその燃料がセットされた乗客ゴンドラが横倒しになって、隣に大きな業務用のような巨大扇風機が置かれ、そばに丸まったシートのようなものが見えました。そのおそらく気球であろうシートはとてもコンパクトにまとまっている。
その後、二、三人によってイモムシのようにコロコロと回りながら展開し、細長くフィールドに置かれました。

今度はそれを別の方向に展開していくと、気球のアウトラインが見えてきます。
そこに巨大扇風機を使って空気を送っていく。だんだん膨れ上がっていくのを見ていると、実は気球頂部にも穴が開いているのが見えました。気球は風船のように穴が一つではなく、上下に二つあるのです。

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ある程度ふわふわとシートが膨らみ揺れてくると、頂部の穴を別の大きな丸いシートで塞いでいきます。縁部には何かアイレットにフックのようなものがあって固定しているように見えましたが、遠くて詳しくはわかりませんでした。
わかったことといえば、気球の頂部を完全に塞いで気密性を保たなくても、いくつかの点で塞げば十分であるということです。これも驚きでした。

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そうして頂部が塞がれ風船のようになった気球は、どんどん膨らんでいきます。空気を送りながら、水平になったバーナーで内包空気を熱していきます。すると寝そべっていた気球がそろそろと立ち上がってくるのです。そのゆっくりとした動きが、おそらくゆっくりであるからこそ、なんとも感動的なのです。

頂部には長い紐がついていて、その端部を2-3人の大男が地上で綱引きのように引っ張っています。急に気球が立ち上がったりしないようにするためでしょうか。
気球が立ち上がっていくにつれて、横倒しになっていたゴンドラを数人でゆっくりと元に戻します。ふと気づけば気球は頭上にあり、もうほとんど写真で見る気球とそっくりな大きさになりました。
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他の気球も少しずつ時間差でそわそわと立ち上がり、次々に乗客を乗せて上へ上がっていきます。一体何分かかったでしょうか。おそらく20分くらい。気付けばもう空高く上がって、あんなに大きく目の前にあったものが、小さく見えていました。終わってみればあっという間の出来事でした。

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後で知ったことによれば、気球は上下の高度調整は熱する空気で調整できるものの、水平方向の移動は風任せのところがあるようです。そのため、多くの場合は地上から紐で固定し、気球の飛行範囲を制限して発着位置をコントロールできるようにして乗客を乗せることが多いようです。


そんな人間が完全にコントロールできない不完全なものだからこそ、自然との調和に魅力がある。そういうところがアルプスの自然と戦いながら生きてきたスイスらしくもある。なんだか面白い乗り物だと改めて感じました。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。

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