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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第57回 2020年12月10日
雑誌の季節

いよいよクリスマス休暇が近づいてきました。

とは言え今年はこの状況下で恒例の事務所クリスマスディナーも中止になってしまい、また年末に帰国する予定も立たず、ここのところ連日4,000人近く感染者が増えているスイス (12月上旬現在) では、冬の空の暗がりのように、僕たちの心持ちも少しだけどんよりしがちです。

この機会にと考えた挙句、時間を見つけては図書館へ行って雑誌のバックナンバーを読んでいくことにしました。

普段は毎月の建築雑誌をやってくる度に読むことはないのですが、休みになると図書館へ行っては、数ヶ月分をまとめて机の上に積み上げて、読み耽っていました。
1年や2年分の雑誌ではなんてことはないのですが、それが4年分くらいになると、面白いくらいに建築デザインの時代が変化していく、ダイナミックさが感じられるのです。
建築デザインは何よりその背景にある時代社会を反映したものであるし、設計者の物事の捉え方を表現したものである以上、変化していくものなのです。その変化を≪器用だ≫と皮肉を込めて意見することもできれば、≪新しい≫と称賛することもできる、受け手によって人それぞれです。

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僕が今回クールの図書館 (Bündnerbibliothek) で閉架書庫から取り出してもらったのは、スイスのコンペ雑誌≪hoch parterre. wettbewerbe≫です。
hoch parterreは、直訳すると≪地上階が幾分か上がったところ≫にある玄関のことを意味します。玄関の前に小さなステップがあるようなイメージです。

しかしスイスでhoch parterreといえば、ほとんどのスイス建築家が知っている建築の出版社、本屋さんのこと。実際にこの出版社の本屋へ行くと、玄関が数ステップ上がっています笑。
世界各地の本を揃えていて、もちろん日本の建築家、建築についての新刊もあり、値段は少し張るものの、僕も時々購入しています。

hoch parterreは、月刊でその名の通りhoch parterreという冊子 (第14回記事も参照)を出版していて、それとは別に年に5刊、設計コンペティションの結果を紹介しているマガジンも刊行している。バックナンバーを読んでいけば、日本人建築家が参加した国際コンペの結果も見つけることができました。

スイスの建築コンペについては、僕は経験に乏しく、知っていることは多くありません。一度バイエラー美術館の増築コンペにズントー事務所で参加した時だけ。その際のことも紹介されていました。(第16回の記事も参考にしてください)

スイスの全てのコンペがこの雑誌に紹介されているわけではもちろんないのですが、注目に値するものは網羅しているようです。1刊につき大体6-8件くらいの異なる設計コンペの結果が紹介されています。

この雑誌に紹介されているようなコンペでは、事前に招待されたコンペと、オープンなコンペがあります。だいぶ前の統計になってしまいますが、2012年に開催された設計コンペ222件のうち、約3分の2にあたる139件が招待コンペで、残りの3分の1が公開コンペでした。建築事務所を始めたばかりの若手建築家にとって、こうした公開コンペに勝っていくつかのプロジェクトを計画したり、また入賞することで別の招待コンペに呼ばれるようになっていく。目の前に決まった仕事がない建築家にとっては、これが一つのサクセスストーリーになるわけなのです。


興味のある方は以下のリンクから雑誌を覗いてみてください。高解像度の誌面をダウンロードをしたい場合は定期購読が必要ですが、低解像度のプレビューでもどんな内容か垣間見ることができます。hoch parterre. wettbewerbe
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。


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