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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第58回 2021年01月10日
2021

新年明けましておめでとうございます。
この連載ブログも今回が第58回、始めてから5年近く経ちました。

私事になりますが、昨年はこの厳しい状況下で予定していた個展を延期せざるを得なくなりました。日本へ帰国することなくスイス国内で一年を過ごすことになりましたが、一方ではドローイングとオブジェクトをいくつか制作して、ウェブで紹介する機会を得たことは大きな一歩となりました。

現在、各国でいろいろなレベルでの行動制限はあると思います。そんな中でも、何を目標にして、そこに向かって走っていくかはその人次第。今年は一体どんな年になるのか、していくのか?こんな状況の中でも、わくわくするような楽しいことをできるだけ増やしていこうと思っています。


今回は冬休みにグラウビュンデン州のサンモリッツ (St.Moritz) へ訪れた時のことを綴ろうと思います。実は昨年も年末を過ごした、毎年恒例になりつつある行事です。

サンモリッツは僕の住んでいるクール市から電車でちょうど2時間離れた、標高1800mくらいのところにあるウィンタースポーツのメッカです。スイス初のスキーリフトがあり、冬季オリンピックも2回行われています。また、1時間程度で歩いて一周できる湖があるため、主に英国人の夏の保養地、そしてスキーリゾートとして有名になりました。
とはいえ、この冬は各国各地域で入国制限があったので、越境してくる人たちは去年に比べてだいぶ少なくなったように見えました。

僕たちは昨年に続き、友人が所有しているアパートに泊まらせてもらうことに。。


年末年始、クリスマス休暇で街のお店は空いているか閉まっているかわからない。レストランはホテルに併設されたものが宿泊客のためのみにオープンしている。とりわけクリスマス前後の時期は日用品や食料品が購入できるスーパー、駅内のお店でさえ閉まっている。

こんな状況では、湖沿いをゆっくりと散歩するに限ります笑。気温は氷点下10度近くあるものの、乾燥していてカラッと雲一つないくらいによく晴れているので、そこまで気温が低いと聞いて驚きます。雪にあたった光がキラキラと光って、眩しいくらい。。と感じているうちに、視界に違和感を感じました。なんとマスクをしていたせいで、吐く息に含まれた蒸気がマスク上部から漏れて、まつ毛を凍らせるというありえないことが起こっていたのです。

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気を取り直して歩きながら湖を眺めると、雪が平原に積もったように見えます。湖が凍ってそこに雪が積もっているのです。毎年2月には、ここで馬の氷上レースが行われています。

同じように湖の周りにはポツポツと人がいるのを見かけます。ジョギングをしている人、犬を連れている人、子供をそりに乗せて引っ張っている人。。。こんなゆっくりとした時間を過ごすのは、過ごさざるを得ないのは、一体いつぶりだろう。。

自然の中に投げ出されてゆっくりと静かな風景の中にいると、自身が行動する速度も自然とゆっくりになっていくような気がします。大きなフレームの中で、自分だけがせかせかしているのも、不自然です。
思考しなければならないことも少なくなってくると、身の回りの時間の流れが、周りに合わせてゆっくりになっていく。そして普段気にもしなかったことに気づき考え始めるようになるのは不思議です。時間の流れというのは、もしかしたら自分で、周りの環境によって、受け取り方を変えることができるのかもしれない。
こんな時は決まって、普段の思考から180度反転したようなアイデアが思い浮かぶことがあるのだけれど笑。

湖をゆっくりと一周しながら、時に湖上へ降りて凍っている水面を歩いた後、友人宅へ戻って、定番のアルペンマカロニ (マカロニとジャガイモを茹でたものに、ベーコン、玉ねぎ、チーズと生クリームで作ったソースを絡め、アップルムースをかけたもの) を食べました。

ふと気づけば、スイス料理の濃い味付けにも慣れてきました。

2021年は念願の東京オリンピック。開催できるのでしょうか。
僕は延期になった個展を夏に行います。
ブログを読んでくださっている方々にお会いできることを楽しみに、日々制作をしています。
今年もよろしくお願いします。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。


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