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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第64回 2021年07月10日
自然の顕れ 

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昨年の夏から同僚と始めたボルダリング、インドアクライミングもスイスでの緊急事態宣言下でしばらくお休みせざるを得ませんでした。ようやく最近になってそれが解除されてからは、また元通りに少しづつ通い始めました。

ハルデンシュタインにアウトドアクライミングのスポットがあると聞いたのはいつだったか。数年前にはすでに耳にしていたと思います。クライミングを始めてからもどうしてか、なかなか外でクライミングするような気持ちにはなれず仕舞いになっていたのですが、夏も近づいてきたことだしと、様子を見にいくことにしました。

ライン川のすぐ傍までそり立っている山はカランダといいます。以前自転車と徒歩で山頂まで行ったときの話をブログに書きましたが、標高は2805mとなかなか高い。麓の村の一つであるハルデンシュタインが海抜550mくらいなので、標高差は2000m以上あります。
そのカランダ山の足元にコースがあるのです。

ボルダリングは取り外し可能な人工の突起物が取り付けられた壁を、指定されたコースに沿って登ります。インドアクライミングも同じものを用いながらボルダリングよりも高い壁を、ロープを使って登っていきます。
室内であれば、既に上部からロープが吊るされたコース“トップロープ“があり、また自分でロープをカラビナに引っ掛けながら進んでいく“リードクライミング“があります。いずれにせよ、クライミングはロープのもう片方を持ってくれる、信用できるパートナーが必要です。

クールにあるクライミングセンターには、クライミングパートナー募集の張り紙がいくつもあります。バディがいなければ成り立たないスポーツです。

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現場にはLime Stoneからできている崖がありました。ところどころに欠けや断層があって、足を引っ掛け、手で掴みやすそうなところがあちらこちらに見かけられます。
もちろん、ロープとカラビナを取り付けるためのフックはすでに岩に固定され、コースがレベル毎に計画されています。

いくぶん高所恐怖症の僕ですが、登っていて手が疲れてきて、どうしても次の一手が出ない時にどうやったらクリアできるのか。と頭をフル稼働させて考えます。クライミングは、ただ力任せに登るのではなく、登る前に、そして登りながら頭の中で道、次の一手を見つけていく作業が、とても面白いのです。
だからこそ、ガタイが良いとはいえない細身の人でも、楽しみながらできるのです。

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こうして自然が剥き出しになった、圧倒的な自然の顕れを見つめると、ここでの暮らしは必ずしも楽ではないけれど、スイスに来て良かった。と思える瞬間があります。
こんな場所に身近に住んでいる人だからこそ、そこにあるものに手を加えずに、いや、手を加える必要がなく、ただその存在を引き立てるような、黒子のような建築を建てているのだと、僕は感じざるを得ません。

建築自体がオブジェクトのように主張する必要はない。
ファンタスティックな形はいらない。


東京五輪オリンピック種目にスポーツクライミングがあるようなので、注目してみようと思っているところです。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。


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