杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」 第71回 2022年02月10日 |
初個展を終えて
展示風景とドローイングのためにデザインされた額縁 先月1月20日から29日まで、ときの忘れものでを行いました。数年前に声をかけていただいてから、幾度の延期を経てようやく開催することができたのですが、直前にオミクロン株が拡まりはじめたこともあって、正直に言えば、かなりの不安を感じながら初日を迎えました。お客さんは来てくれるのだろうか。。? 感染予防のためにギャラリーの窓を開け放っていたので、やや肌寒い展示空間になりましたが、それでも結果的にはたくさんの方に足を運んでいただくことができました。この毎月のエッセイを通して僕のことを知り見に来てくださった方がとても多かった。なにより、長らく連絡をとっていなかった友人知人らに再会する機会が得られただけでも、やって良かったと思いました。 会期中は休みなく毎日ギャラリーに詰めていたので、多くの意見感想、真摯な批評もいただくことができました。来場してくださった方々、そして二人三脚で延期を乗り越えて開催に漕ぎ着けてくださったギャラリースタッフの方々、本当にありがとうございます。実りのある展示でした。 そもそも僕がときの忘れものを知ったのは、2009年頃だったと思います。場所は、学生時代に留学していたスイス、チューリッヒのでした。会場にたくさんあるブースの中で、ときの忘れものは建築家のドローイングを扱っていたので、建築家の卵だった僕が興味を抱くには十分でした。 たしかさんのシルクスクリーンのドローイングが飾ってあったと記憶しています。 そのドローイングは、建物を設計するプロセスの中で描かれたスケッチというよりは、アートとして飾るために創作されたドローイングのように見えました。そうした建築家の描いたドローイングが、彫刻作品や油彩画と並列してそこにあることに正直驚きました。建築家ってアーティストのように活動してもいいんだ、と。 そもそも建築家とアーティストを勝手に理解して線引きをしていた僕が間違っていたんだと思います。でも当時は、建築家は建物を設計する人、アーティストは作品を制作する人。って思い込んでいたのかもしれません。よく考えれば、だって、建築プロジェクトとは直接に関連づけられない絵画や彫刻を多く制作しているのです。 僕が個展のお話しをいただいた時にまず考えたのは、一体何を展示することができるだろうか?ということと、それを展示するくらいの完成度をもって作ることができるのだろうか?ということでした。 ときの忘れものからも、特定の建築プロジェクトを説明するような展示ではないものにして欲しい。と言われていました。そんなこともあって、けっこう長い時間悩みました。 最終的に採用したのは、自分にとってもっとも素直な表現方法。建築設計をしていく上で欠かせないことです。つまり、ドローイングを描いて、素材を用いて模型を作って、大きな実寸のプロトタイプを作って。。。そうした作業から生まれる成果物を、いつもよりも丁寧に、表現が具体的になる一歩手前で取り出すように気をつけて表現したもの。それがそのまま、今回展示した作品になりました。建築家として、従来とは少し違った成果物で、建物を設計する時の考え方を伝える方法が、ここに見つかったような気がしています。 (すぎやま こういちろう) 杉山幸一郎展「スイスのかたち、日本のかたち」開催記念 対談〈杉山幸一郎x戸田穣〉(Part 1) 杉山幸一郎展「スイスのかたち、日本のかたち」開催記念 対談〈杉山幸一郎x戸田穣〉(Part 2) ■ 日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。 2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントーにて研修、2021年まで同アトリエ勤務。 2021年秋からスイス連邦工科大学デザインアシスタント。建築設計事務所atelier tsu。 世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。 「杉山幸一郎のエッセイ」バックナンバー 杉山幸一郎のページへ |
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