杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」 第72回 2022年03月10日 |
スポーツ休暇
スイスでは「スポーツ休暇」というのがあって、州によって時期に多少のズレがありますが、学校が休みになります。期間は一週間から二週間、これも州によってまちまちです。(各自治体の決定が強いところに、スイスらしさがありますね) 本来この時期のスポーツ休暇は雪山に行くことを目的とされているところがあるのですが、ここ数年スキーすることのなかった僕たちは、それが何だか億劫で、スポーツ休暇初日に隣村にあるボルダリングジムに来ました。電車で4分、最寄駅の線路を跨いですぐのところにあるこの鋸屋根が特徴的な建物です。 僕の住んでいるクール市 (Chur) の近くにはクライミングセンター ≪Ap’n Daun Chur≫ が、隣村のフェルスベルク (Felsberg) にはボルダリングジム ≪Quadrel≫ があります。Ap’n Daun Churにクライミングのための壁と、ボルダリングのスペースがあり、場所によってクライミングの壁は10-15mくらいあります、ちょっとした大空間です。壁自体は岩山を抽象的に模したように多角形の面を組み合わせて構成されています。そこに掴んだり足掛かりにしたりするカラフルなホールドがなければ、力強い音楽ホールのようにも見えるのは、建築家としての職業病でしょうか笑。。 ホールドは色ごとにコースとして設定されていて、同じような種類の形が組み合わされていることがよくあります。それぞれの形状には名前(ガバ、スローパーなど)があり、掴むことを意図しているもの、足を掛けることを意図しているものがあります。形だけみるとまたこれも建築のヴォリュームのように見えてくることがあります。とても面白い形です。 一方でボルダリングはロープを使わずにホールドを登っていくので、壁の高さは3.5mくらい (写真は≪Ap’n Daun Chur≫) 。ボルダリングジムへ行くと、4-5mくらいの場所があります。壁のそば一体には厚いマットが敷かれ、落ちた時に怪我をしないよう準備されています。 クライミングセンターやボルダリングジムはこうした大空間が必要になってくるので、大きな倉庫や工場だったところの壁や床を抜いた空間が転用されているところが多く、雰囲気もざっくりしていて、内部にいるのだけれど、外にいるようなおおらかさがあります。 さらには、建物の外 (ファサード) が登る壁となっていることが多いので、そこへ至る大きなドアが開け放しになっていると、屋内だけれど季節によっては肌寒く感じることもあります。大きな口を開けた洞窟のような感じでしょうか。 いつ頃からクライミングセンターによく来るようになったのかは、正確には思い出せません笑が、さすがスイス、山登りやクライマーは周りにちらほらいて、友人と遊びにきたのがきっかけでした。 クールは大きな街ではないからこそ、週末に遊びに出かける場所があまりなく、とりわけ雨が降ったり、寒かったりする秋から冬にかけては、家から出て何かをしようと思うと、インドアクライミングという答えが導き出されたのは必然だったかもしれません。 (すぎやま こういちろう) 杉山幸一郎展「スイスのかたち、日本のかたち」開催記念 対談〈杉山幸一郎x戸田穣〉(Part 1) 杉山幸一郎展「スイスのかたち、日本のかたち」開催記念 対談〈杉山幸一郎x戸田穣〉(Part 2) ■ 日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。 2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントーにて研修、2021年まで同アトリエ勤務。 2021年秋からスイス連邦工科大学デザインアシスタント。建築設計事務所atelier tsu。 世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。 「杉山幸一郎のエッセイ」バックナンバー 杉山幸一郎のページへ |
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