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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第73回 2022年04月10日
紙の博物館

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先日、バーゼルにいる友人家族を訪れた際に、勧められて一緒にPapiermuseumへ行きました。
友人が説明してくれたところによると、今ではノバルティス社やロシュ社といった製薬会社で有名なバーゼルですが、かつては染色で有名だったようです。合成染色が生産されたのがきっかけで、その技術を応用して化学薬品、製薬へとシフトしていった。と聞きました。

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https://www.basler-in.ch/post/spannende-adventszeit-in-der-basler-papiermühleより
ライン側そばに位置するこの博物館の外には、小川が通してあって、水車が気持ちの良い音を立てて回っています。

日本で手漉き和紙を作る過程は見たことがあったので、ここスイスではどういう材料でどうやって作っていたのだろう?とワクワクしながら中へ入ると、外の水車に繋がった大きなギアが大きな餅つきのような工具に繋がれて、大きな音を立てて作業しています。臼の部分にはお餅のようなものが。。これは何だろう?

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説明を聞くと、バーゼルでは紙を洋服のボロから作っていたらしいのです。多くの人から集めた古着を切り刻み細かくした後、こうした機械で叩き繊維を潰していきます。そうすると、ベトっとしたお餅のようなものが出来上がるのです。原料の綿に再び近づいてきた感じでしょうか。

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この原料を、日本でもお馴染みの方法で、プールに入れて漉いていきます。今回ワークショップで用意したプールには、潰された古着の他に少しだけ接着剤のようなものが入っていると聞きました。それは紙の強度を保つためというよりは、出来上がった紙にインクが滲み過ぎないようにするためだそうです。

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漉いた紙は、プレス機に載せられ水分を十分に絞り取ります。

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そうした水分が少なくなった紙をコットンに挟んで、

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アイロンを使って時間を短縮して乾かしていきました。

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別の階へ進むと、そこには紙に加工ができるワークショップがありました。
写真にあるように、ここでは計4種類、左からベリー、紅、コチニール、アカミノキを混ぜた紙の原料を「丸」や「羽ばたく鳥」の型を使って流し込んでいきました。
前回と同じようにプレスした後にアイロンで乾かすと、写真のような紙が出来上がります。
色のある部分は、元の紙と型を使って流し込んだ紙で二層分になっているので、少し膨らんでちょっとしたレリーフのようになっています。

ときの忘れものでの個展では、和紙を使ったオブジェクトを作りました。こうして紙から作り上げていく楽しさを知ったので、次回は材料から作ってみたいな、と考えています。

この博物館が珍しかったのは、紙の歴史から印刷、製本までを体系的に展示説明しているだけでなく、今回のようなワークショップの他にも、特別に紙を注文したり、印刷、製本までしてくれます。展示しながら受注もすることで、かつて紙づくりはどうあったか?だけでなく、今どうあるのか?と言うことも身をもって理解することができました。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントーにて研修、2021年まで同アトリエ勤務。
2021年秋からスイス連邦工科大学デザインアシスタント。建築設計事務所atelier tsu。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。



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