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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第78回 2022年09月10日
ズントーミニツアー

少し肌寒くなってきた8月下旬、日本からやってきた知人家族とともにズントー建築ミニツアーをしました。思えばここ数年はコロナ感染症の影響もあって、こうして日本からゲストを迎えることはほとんどなく、久しぶりだったように思います。こんなところからも、少しずつ元の生活に戻りつつあるな。と嬉しい兆しを感じます。

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まずはクール市内で訪れやすいローマ遺跡発掘シェルター (1986)から。そこからマサンスの老人ホーム (1993)を訪れ、ハルデンシュタインのアトリエ・ズントー (1986)とレート・ハウス (1983)などの初期住宅をいくつか、さらに聖ベネディクト教会 (1989)。と一日でいくつものズントー建築を、小さな改修も合わせれば10プロジェクト近くを見て回りました。

ハルデンシュタインに建っているのはハウス・ズントー (2005)と新アトリエ (2015)の二件を除けば、ほぼ1980-90年前後に建てられたものたちです。僕が生まれたのと同じくらいの時期に竣工していたことを考えると、なんだか信じられません。というのも、これらの建築からは「あぁ、こういう時代があったんだなぁ」と懐かしくも恥ずかしくなるような感情は一切感じられず、建物自体に経年変化は見られるものの、今も「旬」な現れ方をしているのです。それは驚きというか、不思議ですらあります。

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久しぶりに訪れて改めて見て感じるのは、この時期のズントー建築に共通しているのは、なんと言ってもややスケールの小さい、可愛らしささえ感じる細やかさだと思います。
どれも丁寧に作られた家具のような繊細さがあって、そして身体に近い。
手で触れたいと思う範囲が広いと言ったらいいのか。建築は大胆にできているのだけれど、同時にすごく丁寧に作られている。

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一緒に周った知人は、建築と地面との接点に着目していました。聖ベネディクト教会、ローマ遺跡発掘シェルター、アトリエ・ズントーのエントランス部分を見てみると、それぞれが地面から浮かせて計画しています。それは積雪地域で雪が積もってエントランスドアを塞いでしまうから。という理由だとは思うのだけれど、他のプロジェクトは段差なしで代わりに庇を設けて、積雪の問題を解決している。
なんだか、こうした建物やそのエントランスのあり方は、積雪、バリアフリーの他にも、建築と地面の関係を試しているかのように感じました。

(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントーにて研修、2021年まで同アトリエ勤務。
2021年秋からスイス連邦工科大学デザインアシスタント。建築設計事務所atelier tsu。
2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展 スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。


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