植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」 第1回 「包む―日本の伝統パッケージ展 TSUTSUMU−Traditional Japanese Packaging」 2011年3月12日 |
「包む―日本の伝統パッケージ展 TSUTSUMU−Traditional Japanese Packaging」
会期:2011年2月10日(木)―4月3日(日) 会場:目黒区美術館
会場はパッケージの素材によって基本的にグルーピングされている。すなわち、木、竹、笹、土、藁、紙。菓子の容器や酒瓶などが多く、かつて手にしたもの(もちろん食べるため飲むため)にも次々と出会うので、パッケージの美しさを愛でる以上に生唾が出てきた。 卵5つを縦に重ねて藁で固定する山形の「卵つと」に代表されるように、自然材による用の美という印象が前面に出てくるのは当然だが、それは構造的解決をきわめたものの姿である。薦(こも)被(かぶ)りの四斗入り酒樽など、これまで何の気なしに眺めていたが、正面性を出すための藁縄の微妙に不均衡なかけかたなどは、もはや建築的であるといってもいい。 どれもが野生のパッケージである。中味を半ば露出させても「包み」であり、容器をさらに紐で縛りあげたり束ねたりしている表情が強い。それは「包み」の最終目的である解かれるのを待つ表情なのだ。そのように中味が迫ってくる。食品であれば「うまそう」が直接伝わってくる。それは現代のスーパーその他に満ち満ちているビニールなどで小分けにされたり二重三重にパッケージされたりしている食品のあわれな様子といかに隔絶していることか。伝統パッケージは今の世の中ではアンチ・パッケージとして私たちの商品環境を全否定している。 会場入口でもらえる代表出品物のリスト(展示配置の案内も兼ねた)はとてもありがたい。カタログそのものもよくできている。とはいえ写真の入っていないもの(たとえば稲田の風景を彷彿させる茨城の一人娘「いなほ」が30本林立する壮観)や写真ではその雄大さが分かりにくい文明堂かすてらの一辺50センチをこえる木箱などは、カタログと会場とを何度も往き来したくなる。もうひとつ、包みを飾る文字の現代性にも瞠目した。「文字で包む」グルーピングもありえただろう。 (うえだ まこと) ■植田実 Makoto UYEDA 1935年東京生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専攻卒業。『建築』編集スタッフ、その後、月刊『都市住宅』編集長、『GA HOUSES』編集長などを経て、現在フリーの編集者。住まいの図書館編集長、東京藝術大学美術学科建築科講師。著書に『ジャパン・ハウスー打放しコンクリート住宅の現在』(写真・下村純一、グラフィック社1988)、『真夜中の家ー絵本空間論』(住まいの図書館出版局1989)、『住宅という場所で』(共著、TOTO出版2000)、『アパートメントー世界の夢の集合住宅』(写真・平地勲、平凡社コロナ・ブックス2003)、『集合住宅物語』(写真・鬼海弘雄、みすず書房2004)、『植田実の編集現場ー建築を伝えるということ』(共著、ラトルズ2005)、『建築家 五十嵐正ー帯広で五百の建築をつくった』(写真・藤塚光政、西田書店2007)、『都市住宅クロニクル』全2巻(みすず書房2007)ほか。1971年度ADC(東京アートディレクターズクラブ)賞受賞、2003年度日本建築学会文化賞受賞。磯崎新画文集『百二十の見えない都市』(ときの忘れもの1998〜)に企画編集として参加。 「植田実のエッセイ」バックナンバー 植田実のページへ |
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