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植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」
第2回 「鹿島茂コレクション1 グランヴィル−19世紀フランス幻想版画展」  2011年3月13日
「鹿島茂コレクション1 グランヴィル−19世紀フランス幻想版画展」
会期:2011年2011年2月23日(水)―4月3日(日)
会場:練馬区立美術館

 目黒に行ったついでにもうひとつの区美術館にも寄ることにした。ついでに、と考えたのがまちがいだった。圧倒的な点数(約240)、しかも小さい版画や書籍だからひとつひとつ目を凝らして観賞することになる。その内容があまりに面白いので適当に端折って見ることもできない。さいわい練馬区立美術館はりっぱなソファを用意しているので、途中途中で休みながらだったが、圧倒されたのは版画点数そのもの以上に、それを集めたのが鹿島茂個人であることだった。
 フランス文学者としての、また古書愛好家としての彼のことはそれなりに知っていたし、迫力ある風貌にも著作にもなじんでいたつもりだが、これほどの徹底ぶりには唖然と頭が下がるばかりである。J.J.グランヴィルの版画はだれでもすこしは知っていると思うが、実はこの展示でやっとその一端を知ることになったのではないか。
 カタログを購入していないので、朝日新聞3月2日夕刊の記事に頼ると、この企画展は鹿島の「尨大なコレクションを3回にわけて順次公開する」という。あと2回も楽しめるわけだが、19世紀フランスの様相がさらに拡がりを見せるのだろうか。グランヴィルには諷刺画家の肩書がつくことがあるが、たとえばドーミエみたいな破壊的筆致ではなく、どこか穏やかな皮肉といった感じで、だから「ロビンソン・クルーソー」や「ガリバー」の挿絵や、動物や植物の人間化を描いた「幻想版画」への移行がより自然に思えるし、その先から新しいイメージがあふれ出ている。シュルレアリスムの画家たちに強い影響を及ぼしたというのにもうなずける。マックス・エルンストの描く植物のメタモルフォーゼ、あるいは動物と機械と人間とが合体したようなイメージはグランヴィルから触発されたとしたら、と興味は深まる一方なのだった。
(うえだ まこと)

植田実 Makoto UYEDA
1935年東京生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専攻卒業。『建築』編集スタッフ、その後、月刊『都市住宅』編集長、『GA HOUSES』編集長などを経て、現在フリーの編集者。住まいの図書館編集長、東京藝術大学美術学科建築科講師。著書に『ジャパン・ハウスー打放しコンクリート住宅の現在』(写真・下村純一、グラフィック社1988)、『真夜中の家ー絵本空間論』(住まいの図書館出版局1989)、『住宅という場所で』(共著、TOTO出版2000)、『アパートメントー世界の夢の集合住宅』(写真・平地勲、平凡社コロナ・ブックス2003)、『集合住宅物語』(写真・鬼海弘雄、みすず書房2004)、『植田実の編集現場ー建築を伝えるということ』(共著、ラトルズ2005)、『建築家 五十嵐正ー帯広で五百の建築をつくった』(写真・藤塚光政、西田書店2007)、『都市住宅クロニクル』全2巻(みすず書房2007)ほか。1971年度ADC(東京アートディレクターズクラブ)賞受賞、2003年度日本建築学会文化賞受賞。磯崎新画文集『百二十の見えない都市』(ときの忘れもの1998〜)に企画編集として参加。

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