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植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」
第5回 「白洲正子―神と仏、自然への祈り」  2011年4月23日
「白洲正子―神と仏、自然への祈り」
会期:2011年2011年3月19日(土)―5月8日(日)
会場:世田谷美術館

 かなり複雑な展示構成である。前以て内容を確認しないまま行ったので、白洲正子の旧所蔵品を集めたのか、それとも彼女の評価する神仏像や絵画の展覧会なのか知らなかったのだが、そのどっちもだった。それに加えて、白洲のエッセイからの抜き書きが400字づめの原稿用紙に書かれたような体裁で展示品のあいだを埋めている。それを主軸にして見ると、大小の像や古面や絵巻物や屏風(国宝6点、重文30点近く)が豪華すぎる挿絵みたいに思えてきて、展示物そのものを観賞するには集中しにくいし、といって文章を説明として読むにはちょっと落ちつかない。第一、白洲ファンが大勢押しかけているのでゆっくりと立ちどまっている余裕がない。各展示ブロックの節目には大きな写真や映像までが演出に一役買っている。
 いいかえれば企画側の思い入れや熱意が否応なく伝わってくる。展示物を通して白洲のスケールの大きさ、ものを見る眼の自由闊達さ、端的にはどこか豪快かつゴージャスなものへの好みも感じられてくる。多様な展示要素は、著作集か雑誌の特集のような効果を狙っているともいえる。全体は「自然信仰」「かみさま」「西国巡礼」「近江山河抄」「かくれ里」「十一面観音巡礼」「明恵」「道」「修験の行者たち」「古面」の10ブロックに分けられている。この区切りかたもユニークだ。来場者はそれぞれ自分なりに見ていくペースをつかめれば、十分に楽しむことができるだろう。
 図録を買って帰宅してから開いてみると、こちらもまたユニークな造りである。上に挙げた10ブロックを10の冊子と別冊、そして解説の冊子と、12の分冊にしてケースに納めている。一見、気取っているように見えるが読みやすい。写真は大きくてきれいな印刷だし、それに組み合わせた白洲のエッセイのハイライトをゆっくり読むことができる。彼女の「神と仏、自然への祈り」の主体性と深みが届いてくる。たとえば、
「神仏の混淆は、宗教の世界だけの出来事ではない、一回きりの事件でもない、あらゆる時代に、あらゆる所で行われた、和魂洋才の表現であった。」
 「信心深い人々にとって、仏像を見ることは問題ではなく、見たら目がつぶれると信じているに違いない。日本の文化財を護って来たのはそういう人達であることを、せめて私は忘れたくないと、その度毎に思うのである。」
 一瞬にして啓示される指摘は、いたるところにある。
 このなかに『木―なまえ・かたち・たくみ』からの引用もあったのが嬉しかった。私がいまも関わっている住まいの図書館出版局から刊行された「住まい学大系」005巻(1987年)がこの本である。本が出来たときに武相荘にお礼にうかがった。白州さんは木の葉一枚だけで構成されたジャケット・デザインについて、すこしさびしいというようなことを言われ、私は企業のPR誌みたいに賑やかなデザインが好きだな、ともおっしゃった。この訪問でそれがいちばん記憶に残っている。今回の展覧会場で、あの時の白洲さんの眼差しが強くよみがえってきた。
(2011.4.11 うえだ まこと)

植田実 Makoto UYEDA
1935年東京生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専攻卒業。『建築』編集スタッフ、その後、月刊『都市住宅』編集長、『GA HOUSES』編集長などを経て、現在フリーの編集者。住まいの図書館編集長、東京藝術大学美術学科建築科講師。著書に『ジャパン・ハウスー打放しコンクリート住宅の現在』(写真・下村純一、グラフィック社1988)、『真夜中の家ー絵本空間論』(住まいの図書館出版局1989)、『住宅という場所で』(共著、TOTO出版2000)、『アパートメントー世界の夢の集合住宅』(写真・平地勲、平凡社コロナ・ブックス2003)、『集合住宅物語』(写真・鬼海弘雄、みすず書房2004)、『植田実の編集現場ー建築を伝えるということ』(共著、ラトルズ2005)、『建築家 五十嵐正ー帯広で五百の建築をつくった』(写真・藤塚光政、西田書店2007)、『都市住宅クロニクル』全2巻(みすず書房2007)ほか。1971年度ADC(東京アートディレクターズクラブ)賞受賞、2003年度日本建築学会文化賞受賞。磯崎新画文集『百二十の見えない都市』(ときの忘れもの1998〜)に企画編集として参加。

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