画廊主のエッセイ
このコ-ナ-では、画廊の亭主が新聞や雑誌などに依頼されて執筆したエッセイを再録します。

PCS プリンツ・コレクターズ・サロンについて

綿貫不二夫

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PCSについて8    2002年6月12日
 今回は尻切れとんぼにならぬよう、PCSについては、最後までじ っくりご紹介しま す。ところで、先日の佐久間さんの投稿ではたと気付いたのですが、雑誌『gq』は、 私の 世代にとっては、最もメジャーな雑誌でしたから、ご紹介するまでもないと思 っていたのですが、よく考え てみれば、いまや30年前のことなのですね。名前も知 らない人がいても不思議ではないですね。70年代と いうのは、一方で『gq』のよう な、お金のかかった贅沢な雑誌があり(世界的な水準です)、かたや 『PCS』のよう なアマチュアのそまつな同人雑誌があるという、まさに<版画の時代>でした。どち らもうまれる べくして生まれたのだと思います。私はこの掲示板では、恐らく国会 図書館にもないような、マイナーな資 料を紹介することにより、版画の世界の奥行きの深さを、少しでも皆さんに知っていただきたいと思う次第 です。とはいえ、私も結構忙しい。なにせ、商売ですから、絵も売らに ゃあならん。みなさんの<合いの手、愛の手>により、盛り上げて下さること を切に期待します。

PCSについて9    2002年6月14日
 渡邊さんご推薦の細田正義(ほそだ・せいぎ)さんは、「プリントアート」誌第 4号(1972年3月発行)の特集<プリント作家名鑑>によれば、本名・細田浩、明治 41年3月6日広島県生まれ、東京美術学校(東京芸大)油画科卒業、関野準一郎に師 事、女子美とトキワ松女子短大の講師、前職として富士天然色写真株式会社主任部 員とあります。
1969年創立のPCSの協力作家として宮下登喜雄、萩原英雄、駒井哲郎、関野準一郎、堀井英雄、細田正義、古沢岩美、笹島喜平、池田満寿夫、木村 茂、深沢幸雄、竹田和 子、佐藤暢男の計13名が機関誌第2号に公表されていると前々 回ご紹介しました。私が現代版画センターを創 立したのは、1974年です。まあ同時代といってよいでしょう。この13名と、わが現代版画センターのエディション作家 (約70数名)で重複しているのは、萩原英雄、古沢岩美、木村茂の僅か3名です。他 に駒井哲郎 先生は、エディションこそ実現しませんでしたが(もちろん依頼しまし た)、1975年に現代版画センター企画で「駒井哲郎新作発表全国展」をやりまし た。駒井先生を入れても4名、好みやポリシーの違いが如実に出 ていますね。池田さんのように、こちらが口説いても駄目だった場合もありますが・・・

PCSについて10   2002年6月15日
  PCSの機関誌第3号をご紹介します。
体裁は第1,2号と全く同じで す。1971年8月発 行、B5判サイズ(25.5×17.2cm)、中に挟み込みが入り6ページとなりました。執筆 は2 名、まず東京芸大助教授駒井哲郎先生の『版画コレクターのために』、もうひ とつは会員の国学院大学教授・ 塚谷晃弘さんの『洞天清祿集など』という原稿で す。塚谷(つかたに)さんは既に鬼籍に入られましたが、 つい先日鎌倉近美で開催 されたクレー展に並んでいたクレーの自画像の版画が塚谷さん旧蔵です。
特筆すべきはこの3号には挟み込みで駒井哲郎のオリジナル銅版 画が挿入されたこと です。

挿入作品は「樹」(1969年 エッチング 6.8cm×10.8cm)のセカンド・エデ ィシ ョンです。レゾネNo.226で東京都美カタログその他には<Ed.20>と記載されて いるだけですが、実はこの PCSのために1971年に数十部をセカンド・エディションし たわけです。ただし、ノーサイン、限定番号の記入も ありません。凄いのは機関誌 のはさみ込みのため、作品の裏にも、活字が印刷されています。浪川会長にさ っき 聞いたところでは、機関誌(会報)の部数は「50部くらい」、頒布価格は会費なので 数千円だった由。
ほかにサイン入りの別刷りがあり、これはEd.30、頒布価格 25.000円だったそうです。つまりレゾネ記載以 外に80部くらいのセカンド・エディ ションがあることになります。駒井先生のある意味で典型的なパターンで す。
6頁には<新入会員>として3名の方の住所、電話が記載されてい ます。また<お願 いとお知らせ>として「頒布会のお知らせをしても、無断で3回何の連絡なきとき は、 自然退会と致します。>とあります。会の意気込みが伝わってきますね。

PCSについて11、駒井哲郎エッセイ(イ)   2002年6月19日
 前回、PCS機関誌3号の紹介をしましたが、そこに掲載された駒井先生のエッセイ はコレクターの内輪の機関誌ということもあり、気楽に書いたのでしょう。なかなか 好も しい文章です。せっかくですから紹介しましょう。
駒井哲郎「版画コレクターのために」1971年8月
原稿たのまれても書くことがなくて困りましたが、蒐集家の皆様にとってはやっぱり版画をいくらで買ったかというようなことが一番興味のあることではないかと思いま すので去年の秋パリで買った版画のことや買えなかった版画のことなど書いてみましょう。パリで今一ばん大きな版画商はセーヌ街のどんづまりにあるプルーテ(Paul PROUTE)だと思います。ここは床から天井まで版画のカルトンがぎっしりつ まっていて、先づ店に入ると店員がどんなものがお望みですかと非常にていねいに 問いかけてきます。ですからこちらもいともていちょうに十六世紀のビュラン彫りの 作品が見たいなどといいますと、ウィ、ムッシュといい乍ら壁から厚いカルトンを 引き出してカルトン置きに据えてくれ椅子にかけるように目まぜして(ママ目くば せして?)灰皿など近くの机に用意してくれます。そこでこちらはやおら老眼鏡をかけ、ポケットから天眼鏡と懐 中電燈を持ち出すのです。パリの店は電燈を節約しているせいか薄暗く版画の微妙な線の良し悪しを見るためにはどうしてもそんなものが必要なのです。プルーテでいろいろさまざまな版画を見ていますとそれは全 く宝の山で、このような素晴らしい版画が街の版画商に あるのが全く夢のようです。(続く)

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