井桁裕子−私の人形制作 第1回 2009年11月14日 |
こんにちわ。
来年三月に展覧会をさせていただく井桁裕子です。 「人形」を作っているのですが、自己紹介も兼ねて人形のことを書いてみてはと勧めていただき、お邪魔しております。 人形と言っても幅広く、自分の作っているものを人に説明しようとすると話が長くなるので、普段は写真を見せて一挙解決というのが恒例なのですが、これをまじめに試みるとおのずと自分のルーツを調べる形になりそうです。 私は球体関節の人形を主に制作しています。なのでそれについての話から始めてみます。 球体関節人形といえば、四谷シモン氏のことをご存じの方も多いと思います。もともとはポーズ人形をつくっておられたのを、澁澤龍彦氏が1965(昭和40)年「新婦人」という雑誌で紹介したハンス・ベルメールの人形の写真に衝撃を受けて、布などの材料をみんな捨ててしまった...というエピソードは有名です。
ここでいうビスクドール(bisque doll)とは、釉薬をかけないつや消しの肌をした磁器の人形をいい、アンティークドールと呼ばれるようないわゆるフランス人形がそれです。 ちなみに釉薬をかけたものはチャイナドールと呼ぶのだそうです。 市松人形にも「三つ折れ」といって正座ができるように関節の動くものがありますが、こちらは桐塑といって桐の粉をでんぷん糊で練ったもので造形され、胡粉を塗って仕上げます。 現在ではプラスチック製のよくできた半完成品が数万円で手に入り、カスタマイズ(かつらや目玉を付け替えたり着せ替えなど)して楽しむという世界があります。
それは子供のためのおもちゃではありません。かといって「オトナの」 性的なファンタジーを表現したものでもありませんでした。つまり、アンダーグラウンドなものだった、ということです。 2004年に東京都現代美術館で「Dolls of INNOSENCE 球体関節人形展」が行われ、これがきっかけで知ったという人も多かったのではないかと思います。 http://www.museum.or.jp/announce/20040207/ http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/cnt_eventnews_20040316b.htm 時は移り、アングラなものは毒気を抜かれたというか、デパートでの創作人形展など人形の市場が増えてきました。 カスタマイズドールの人気とも相関関係があるのでしょうか。手の込んだ衣装を着けた愛くるしい小さめのビスクドールが「売れ筋」 とされて、人気作家の展覧会では初日に完売などということもよくあります。そういった作家の方達がそれぞれ教室を開いていて、生徒さんがいますが、こういうものに日本中でどのくらいの人口があるのか、誰もちゃんと数えていないのでわかりません。伝統工芸のほうなら職業として認知されているし、歴史なども書き残されているのですが。 日本の人形は、季節の行事や祭礼と結びついた、社会のなかに深く根付いてきたものです。社会のほうが変わっていき、それにつれて人形を愛する心がすたれるのではなく、違う形で噴出しているという感じがします。現代人は、自分がどこからやってきてどこへいくのか見失って生きていると私は思います。系譜をたどることのできない人形達の氾濫は、人のあり方とよく似ています。 個人的には、球体関節の人形との初めての出会いは図書館で見つけた「動く木彫り人形・マリオネットから球体関節の人形まで」という友永詔三氏の技法書でした。
私は、その本を高校三年のときに発見し、「そうか、人形は自分で作れるんだ!」と夢中になったのです。が、木彫をする道具もないし、進学のこともあって人形は一時中断。絵を描くのがずっと好きだったので、なんとかその方面で生活できるように美大のデザイン科に進学し、在学中から当時渋谷にあった「日本人形学院」に行き、人形を作り始めました。本城光太郎氏が講師で「石粉粘土」を使った人形を作っていました。 友永詔三氏には、社会人になりたての頃、一度だけ個展をされている会場でお目にかかったことがあり、気さくにお話しして頂き感動しました。が、そこに「動く人形」はありませんでした。数年後、人づてにやはり「友永先生は、もう今は人形作家と呼ばれるのを嫌がっておられる」と聞きました。きっと子供向けの人形劇のイメージでずっと見られるのが嫌なのだわ、と私は勝手に思いましたが、実際のところはわかりません。しかしとてもその一件が印象に残っています。 同じく人間を造形してあるのに、人形と彫刻は何が違うのだろうね、ということを話題にする人が時々いるのですが、話のたびに違う考えを言ってしまう私です。 続く。(いげたひろこ) 「井桁裕子−私の人形制作」バックナンバー 井桁裕子のページへ |
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