井桁裕子−私の人形制作 第14回 「ART OSAKA 2010」 2010年7月20日 |
初の大阪での「個展」でしたが、たった3日の展覧会はあっという間に終了しました。
短い分、濃厚な日々で、活気を吸収したらしく私は夏バテをしっかり治して帰って来ました。 8日が搬入でした。 持って行ったのは「Makiko doll 」と「錬金術ーRyoko doll」、そして焼き物をいくつか、です。 ときの忘れもののスタッフの尾立さんに手際よく支度をしていただきまして、展示も片付けもすべてスムーズでした。 室内の様子は写真をごらんください。 中央の大きなベッドに須川さんの人形を寝かせ、考えた末、そのわきにRyoko-dollを置くことに決定。 これはこの部屋では不動の配置で、なぜなら天井からベッドサイドに下がっている2本のライトを照明に利用したからです。 このやや低めのライトのコードを、人形用の針金やら尾立さんの髪のゴムやらでくくって、人形の方をちゃんと照らすことに成功しました。 なかなか落ち着いた、いい雰囲気です。 会期中はお客様に、「全47室の展示で、ベッドを最も正しく使用しているのはこの部屋です。」とあまり意味のない自慢をしました。 通りを歩いて川を二つ越えたところにブックカフェ「Calo」があり、そちらでは井村一巴さんの個展でした。 井村さんの搬入が同じ日だったので、自分の仕事もそこそこに連絡をとり、尾立さんと一緒に尋ねて行きました。 「Calo」の自慢のカレーの匂いが胃に浸みる夜8時、終わったら食事に行こう!と言いながらも井村さんの展示作業はなかなか終わりません。 あきらかに飢えた顔つきで待っている我々の存在は井村さんにとってプレッシャー以外の何ものでもなかったはずですが、そんなことに関わりなく、彼女の作品からはひたむきな透明感が、白い壁を前にして羽ばたいていたのでした。 翌9日、プレビューは午後2時からでした。 大阪・京都などの地元の画廊はすでに混雑していましたが、わが815号室はほどよい感じでお客さんがやってきます。 いつも東京でお会いする皆様も駆けつけて下さって、ゆっくり滞在してくださいます。 実に心強い限りです。 会場を訪れる方達は若い人達が多く、ぎょっとして踵を返す方もあれば、ゆっくり留まっていく方達もいます。 話しかけて欲しそうな方にはいろいろ説明したりして、そうすると実に興味津々に聞いてくれました。 しかし、なにかが変です。 ....ああっ、そういえば今回、説明のボードが無い.....! 個展のときにはモデルの方のプロフィールを貼っていたのに、今回それを準備し忘れていたのです。 つまり、「肖像です」という情報が何も無いまま展示していたのでした。 遅まきながら翌10日の夜、ときの忘れものに連絡し、データを探してもらいました。 データは須川さんの勤め先のデザイン事務所に送ってもらい、夜更けにプリントしてもらってボードに貼って...。 まったくお騒がせです。 「広告丸」高橋善丸さん、そして須川さん、感謝感謝です。 〜〜 makiko dollもRyoko dollも、異形な造形がどこから出てきたのかがわからないと、面白くありません。 同時にヌードの作品である点も、肖像なのかそうでないのかによって大きくとらえ方が変わると思います。 実在の人物でなければどんなものを作ろうが作者の勝手ですが、肖像には対象に対する責任があり、モデルの意思があって成立するものだからです。 以前、私はセルフポートレートの人形を作りました。 当時、私は摂食障害の傾向があり、そのため体のサイズから何から、自分のことがさっぱりわからなくなっていました。 痩せたとたんに、知らない男の人が突然手を握ってきたりするのです。 体の大きさが少し違うだけで、人と自分の関係がまるで変わってしまうのでした。 そこで私は、自分の身体を、自分でも見えるように外側にもう一つ作ってみようとしました。 自分の心の悩みについては誰にも話したくなかったので、作品だけを何の注釈もなく発表してしまったのです。 それで判ったことは、20代の女性の人形を裸で置いた場合、本人の意図とは無関係に、男性からはエロティックなものとしてまず認識される、ということでした。 たとえばそれは、人形と本人を見比べて「この服の下はこうなっているのだな」と思うのが正しい見方だと感じられてしまうわけです。 まあ、異性のヌードを突然見せられるとまずは性的な印象を感じるものでしょうが、その先があると思ってもらえないのは問題で、しかもこの場合また説明がしにくい個人的な感情をテーマにしていたのも大問題だったのでした。 説明するよりは誤解されている方がいいのか、なんだか私は困った状態になってしまいました。 表現の動機は女性としてのナルシシズムだと思われていたようです。 しかし前述の通り、私は自分にうっとりするというよりはむしろ逆で、今ある自分をいったん見つめて肯定しなければ、このままでは生きて行かれないと思っていたのです。 結果あらためて「人間てよくできてるな」と感心したのですから、それをナルシシズムと言えなくもないけれど、異性の眼を意識した甘い感情は全くありませんでした。 同じ一人の人間が、時と場合によって性的であったりなかったりするわけですが、全身くまなく作ってしまった人形は、人間と同じようにどのように見せるかによって、性的なものになったりそれほどでもなかったりします。 今回、ベッドに寝かせたMakiko doll はちょっとお色気モードだったかもしれません。 が、命の瀬戸際を乗り越えてきた身体を堂々と見せる心意気と、球体関節人形の妖しい表現の、その危険なバランスがよりはっきり表現されたのではと思いました。 身体表現は、自分の身体を自分に取り戻すことから始まります。 性的なエロチシズムはその逆で、身体などの個人的なものを他者に所有されてしてしまうところに趣がある気がします。 それは分けて考えればいいことなのです。 とはいえ、ヌード、とくに男女を問わず性器の表現などについては、なかなか難しいなと思っています。 またこのあたりはもっと考察が必要なのでしょう。 〜〜〜 11日、最後のお客様が帰られて、片付けが始まりました。 たくさん用意していただいた私のパンフレットも、すっかりなくなりました。 外は連日雨でしたが、本当にたくさんのお客様がいらしてくださって、室内が渋滞するほどでした。 多くの出会いに恵まれた、実り多き大阪の日々....。 出かける前、なんとなく不安になっていたのが嘘のようです。 「またこちらで展示を!」と何人もの方に言っていただき、それはニンニクよりも生レバーよりも私の夏バテをふっとばす力となったのでした。 (いげたひろこ) 「井桁裕子−私の人形制作」バックナンバー 井桁裕子のページへ |
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