井桁裕子のエッセイ−私の人形制作 第49回 「張り子をつくる」 2013年7月20日 |
暑い日々が続いています。
今年は前半は焼き物にはまってしまい、6月まで窯を使っていましたが、最近は桐塑の作品にとりかかっています。 立体を作るには彫像と塑像がありますが、どちらもそのままでは中心が詰まった状態です。 抜き型を作れば、始めから中が空洞になったものを作ることができます。 読んで頂いて面白いかどうかわかりませんが、その、型を作って張り子で抜く作業をご紹介します。 〜〜 まず、原形を作ります。 今回は油粘土で作りました。 その原形が壊れずに抜けるかどうか、吟味しながら分割線を引いていきます。この作業はとても重要なものです。 もちろんなるべく分割の数が少ない方がいいですが、顔はあごの下や鼻の下がオーバーハングになっているので最低でも3分割になってしまいます。 今回は無理せず4分割にすることにしました。 その線に沿って油粘土で壁(写真2a参照)を作って、順番に石膏をかけて作っていきます。 分割面の石膏には必ず離型剤を塗ります。普通はカリ石けんですが、私は床用の「リンレイワックス」がいいと教えてもらって使っています。 石膏にはスタッフという椰子の繊維を混ぜて強くします。 石膏は、水にそっと振り入れて、沈殿するまで2〜3分待ち、上澄みを捨てて丸棒で攪拌(写真1a)。 右に100回、左に100回、泡立たないようによく混ぜます。この攪拌で水と石膏が反応をし始めます。
全体が石膏で覆われてしまうと、ほんとうに割れるのかどうか心配になります(写真1b)。 などと書いていますが、この不安感は一般的なものではありません。昔、初めてビスクドールの型を作ったときに、離型剤を塗り忘れてただの石膏の塊をつくってしまい、のこぎりで切ってもらって型を開けたという事件がこの不安の源です。 この写真では見えませんが、リンレイワックスがにじんでオレンジ色に分割線が見えるので、開けるときの目印になります。
この石膏型はこれで終わりではなく、紙を張り込むときに型がばらけないように押さえるためのパーツも必要になるため、分割された部分を覆うように「皿」を作っていきます(写真2、2a)。 この皿で4分割の型を2分割の型のようにして使うのです。 これも引っかからずカパッと皿が外れるように、作った石膏型をきれいに削ってから離型剤をよく塗ります。そしてまた壁を作って石膏をかけていきます。
石膏は固まってくると発熱します。 冬はこれで凍えた指先を暖めるのがささやかな楽しみなのですが、べつに冬でなくても「ああ、うまく反応している」と満足感を覚えるところです。 熱が冷めて石膏の雰囲気が落ち着いてきたら、型を開けても大丈夫です(写真3、4)。こういうのっぺらぼうの顔が入っていたのです。
型を乾燥させて、いよいよ張り子を貼っていきます(写真5)。 和紙の問屋さんで、張り子用というと教えてくれますが、もっとキレイな白いのもあります。 これをちぎって湿らせて、糊をべとべとに染みこませて貼っていくのですが、型に接する一層目は糊は使いません。言うまでもなく型に張り付いてしまうからです。 二層目からは空気が入らないようにぎゅうぎゅう圧迫しながら貼り込みます。厚みは、数枚程度です。 貼った後は乾燥によって縮みますから、割り箸など使って押さえています。
乾いたら、外します(写真6)。 外したら、バリの部分を削って、合わせ目も平らに削って、貼り合わせる準備をします。 プラスチックなみに硬くなった和紙でカッターナイフが滑って、私は毎回ここで左手に怪我をするので、必ず作業用の頑丈な手袋を着用します。
準備ができたら、糊と粘土を混ぜたもので貼り合わせます。 石膏型からちゃんと「複製」ができあがりました(写真7)。 このとき、乾燥する段階でずれてしまわないように合わせ目に薄い和紙を貼って、ずれ止めにします。
これはあとでどうにでもなるようにのっぺらぼうなのですが、ちゃんとした原形を作ればもっと精密な張り子もできます。 この方法でお面なども作れるんじゃないかと思います。 今回は、なんだか夏休みの工作のような話になってしまいました。 もっとちゃんと習いたい方は、ぜひ原宿の「エコール・ド・シモン」への入学をおすすめします! (いげたひろこ) 「井桁裕子のエッセイ−私の人形制作」バックナンバー 井桁裕子のページへ |
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