井桁裕子のエッセイ−私の人形制作 第50回 「桐塑の作業」 2013年8月20日 |
ときの忘れものでは明日21日から「殿敷侃 遺作展」が始まります。
広島では「はつかいち美術ギャラリー」での回顧展もまだ開催中です。 私はこの回顧展のオープニングの時期に作品のモデルの方に会いに大阪まで行っていたのですが、戻ってからこの展示を知り「広島まで足を伸ばすべきだった!」と残念に思いました。 そのかわりに...というわけでもありませんが、岩波ホールで映画「ひろしま 石内都・遺されたものたち」を観てきました。 ものを遺して、人は去っていきます。過去に向き合うことは、すなわち未来に語りかけることです。 映画の中で石内さんは、撮影することで遺品たちを重い歴史から解放させてあげたかった、というようなことを語られていました。 写真となった衣類は確かに、個人の物語を活き活きと語り出すかのようでした。 当時の「もの」だけでなく、その後に重ねられていく様々な表現の厚さが、また生きた人間の歴史になっていくのだと思います。 ロビーでは世界の核被害についての展示もありました。 そして、この話からはまったく余談ながら、ロビーの端のチラシ置き場には「ハーメルン」のチラシも控えめに置かれていました。 私はちょっと嬉しくなりましたが、どうも誰もそこには寄りつかず取っていく人がありません。 しかも一番下の段で、他のチラシの後ろになって「ハー」しか見えなくなっているのです。 これではまずいと思い、何気なくチラシを取るふりをして「ン」までちゃんと見えるようにずらしておきました。ちょっとやりすぎたかもしれないと帰りの電車で反省しました。 「ひろしま」は残念ながら16日で終了しましたが、こちらは9/7から始まりです。 〜〜 前回、張り子の作業を書いたので、その続きを少し書きます。 桐塑について、「桐の粉とでんぷんの糊を混ぜたもの」とよく簡単に説明するのですが、本来は生麩糊という天然の材料を使うそうです。 しかし、私はその代わりに「CMC(カルボキシメチルセルロース)」という合成でんぷんを使用しています。
生麩糊は、小麦粉や片栗粉などと同じく粉に水を加えたあとで熱していかないと糊化しません。 ところがCMCは粉に水を加えただけで一瞬にして糊化するのです。 工業的には食品添加物としてお菓子などに使われているそうで、もちろん毒性はありません。 その糊というか、くず餅のような感じに練ったCMCに、桐の粉と木工ボンドを少し混ぜます。 桐塑だけだと固まってから非常に硬く、刃物がすぐになまくらになるほどです。 そこまで硬くないほうがいい、という場合は石粉粘土をよく練りまぜて使います。 石粉粘土はきめが細かく、精密な造形に向いています。やすりがけをすればすぐにスベスベになるし、刃物で楽々と削れるし、乾燥も早くひび割れなどのトラブルも少ないのです。 扱いやすさでは言うこと無しの素材ですが、その特性は傷つきやすさと表裏一体で、私のような乱暴者には向かないので単独では使わなくなりました。 そしてこれは未確認なことですが、石粉粘土には何か保存料が含まれているようで、桐塑に混ぜると作業中ずいぶん長持ちするのです。 桐粉とCMCだけで練ったものは、生ものですから数日で黒くなってきます。その日の分しか作らない老舗の餅菓子みたいな気分で作業しています。
まめに乾燥させながらおおむね顔を作っていき、できてきたら、目を入れるために頭の後ろを開けます。 そしてまぶたの内側を丸くくりぬいて眼球を入れられるようにします。
さてこれは誰の顔か....。 ご本人はもう少し可愛いらしいのですが! (いげたひろこ) 「井桁裕子のエッセイ−私の人形制作」バックナンバー 井桁裕子のページへ |
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