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井桁裕子のエッセイ−私の人形制作
第53回 「「時をかける等身大人形」始まりました!」 2013年11月20日
先日、このブログで紹介して頂きましたが、愛知県「高浜市やきものの里 かわら美術館」で「Dolls Collection 時をかける等身大人形 −細工人形・菊人形からマネキン・フィギュア・ロボットまで」という展覧会が開催中です。
私は14日に作品2点を搬入に行ってきました。

名古屋にはちょうどお昼に到着、鉄の造形作家、藤井健仁さんに車で拾ってもらい、名物「味噌カツ」風の串カツを食べてから高浜へ向かいました。
藤井さんも不思議な魅力の「ヒトガタ」作品を作られているのですが、今回は助っ人としてお世話になりました。
(藤井さんのサイト)
http://www.takehito-fujii.com
14日は搬入の最終日だったので、もうほとんど他の展示が終わって設置されたところに到着した感じです。
この展示の主任担当者の安藤さんが出迎えてくださり、すでにお会いしていた今泉さんに館内を案内してもらいました。



1階にはエントランスに菊人形、そして扉を開けるとそこはマネキンやフィギュアの部屋です。
1996年にO美術館で行われた「ひとがた・からくり・ロボット」展に出されていたマネキンなども、新たな視点で紹介されています。
2階には生き人形関係の展示、その奥が現代作家の部屋です。四谷シモンさんの「解剖学の少年」が可愛くおなかを広げながら正面に飾られています。

私の場所のとなりには、懐かしい作品がありました。
ずっと以前に美術館で見たことのある三人組です。
(以下、七彩の作品画像はO美術館の上記カタログより。)

「仲間」グループ七彩(欠田誠・加野正浩)/1971年

これはマネキン制作会社・七彩で、欠田誠氏をはじめとしたプロジェクトチームで作られたものです。
1970年当時、すでに七彩では人間の首から下をまるごと型どりできる装置ができていましたが、さらに、目を開けたままの顔までも型どりする技術が開発されました。そして様々な実験と挑戦を経て、スーパーリアル・マネキンが制作されていったのです。
当時、現代美術の世界ではスーパーリアリズムの作品が米国を中心に注目を集めていました。そういう流れの中で「目を開けたまま型取りできる」特殊技術で作られたマネキンは時代の最先端のアートとなっていったのでした。
これらの経緯は欠田誠氏の著書「マネキン 美しい人体の物語」(晶文社)に詳しく書かれています。これは2002年の出版時に買って私が愛読していた本です。なので、欠田さんご本人が以前、私の展覧会に来て下さったときは感激したものでした。
(参考:John DE ANDREA/ドクメンタ5(1972)、画像はマグナムのサイトより)


さて、今回、私が持って行ったのは「枡形山の鬼」(吉本大輔氏の肖像)と、「Makiko Doll」です。

井桁裕子
「桝形山の鬼 舞踏家・吉本大輔氏肖像」
2007年
桐塑
H200.0cm
H115.0cm

井桁裕子
「Makiko doll」
2009年
桐塑
H115.0cm

「枡形山の鬼」は壁に三角形の板を設置してもらい、藤井さん、学芸員の今泉さんに支えてもらいながらこれに吊して、無事に展示ができました。
Makiko Dollがやや難航しましたが、これも藤井さんのおかげで無事設置しました。難航というのは、ようするに私が作業手順を間違えたりしていただけなのですが、やはり時々展示をしないといろいろ忘れるものだと思いました。

ちょうど5時に作業が終わり、1階のマネキンの部屋で総括責任者・若松さんにお会いしました。
かわら美術館の学芸員の皆様はどなたも本当に暖かい雰囲気でしたが、若松さんも素敵な笑顔で展示物の説明をしてくださいました。
ウルトラマンやアニメーションの等身大フィギュアも居ますし、愛知万博で世間に知られたロボットたちも来ています。
マネキンがなぜ七彩のものばかりなのかというと、ほかの制作会社は昔のものを何も保管していないのだそうです。
商品として消費されるマネキンの悲哀を感じます。

次の画像はスペインの「コッペリア・マネキン」社のフランス人原型師ジャン・ピエール・ダルナによるマネキンです。
前述の本には彫刻家とマネキン制作者の両方を行き来した欠田誠さんの若き日の思いが随所に書かれていますが、このコッペリア社のダルナ氏のところへ1963年に招待されて修行に行ったことも出てきます。このマネキンはその記念に七彩に保存されているものなのでしょう。
60年代のファッションの都で活躍したこのマネキンは本当に美しく、時代の空気を感じさせます。


しかし、マネキンのスリムな肢体は現実離れしたものです。
本当の人間の平均的な形を知りたい、と考えたことがある人も多いのではないでしょうか。
それがこれで、日本人の身体の寸法を全国規模で計測したデータベース(92〜94年)をもとに作られた「身体寸法ダミー」です。
展示では、観客も身長を確認できるように(?)柱状の尺度計がこの横に置いてあります。
この画像は20代女性の平均ですが、会場にはほかの年齢層の男女もそろっていました。


江戸末期から明治、大正にかけての「生き人形」については、残念ながら実物はあまりありません。
しかし明治・大正・昭和にかけての菊人形の賑わいやご当地の「吉浜細工人形」などの様子を伝える、木版画や写真、印刷物などの資料が充実しています。
じっくり見ると面白そうでしたが、ちょっと時間切れでした。
次に行く時は、展示はもちろん、港に近い町の様子なども探索したいと思います。

楽しい展示ですので、可能な方はどうぞご来場下さい。
http://www.takahama-kawara-museum.com/exhibition/detail.php?id=304
12月23日までです。
ご招待券がありますので、いらっしゃる方にお分けいたします。
ご連絡をお待ちしております。
(いげたひろこ)


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