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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」
第9回 2013年10月1日

(画像をクリックすると拡大します)

空が広い。半分くらい空だと言ってもよい。見ていると気持ちが広々としてくる。空の広かったころは、いやなことがあっても空を見上げれば気持ちが変わった。いまだって地方に行けば空は広いのに、奇怪な犯罪が多発している、ということは空を見上げるということをしなくなったのか。

空は、空だけだと空とは感じられないものである。そこに空らしいものがあってはじめて、ああ、空だなあ、と思う。その意味で飛行船ほど空を実感させてくれるものはないだろう。飛行機はあっという間に飛び去って見えなくなるが、飛行船は動きがおそく、ふわふわとたよりなく移動するところが、ここは空です、と主張しているようだ。

雲もまた空を実感させてくれる名優である。ぜんたいを覆いすぎず、ぽっかりと浮かんでいるくらいの感じが望ましく、雲間に煙突が伸びていればなおよい。昔の写真、たとえば下町のお化け煙突などがしきり空を感じさせるのは、とりとめのない横の広がりに垂直の力が働いていることにより空が強調されるからだ。願わくばその煙突から煙が出て上空にたなびいて欲しい。煙には雲と同じように融通無碍な感じがあり、空を空らしく見せる名脇役といえる。

このようなことを考えて改めてこの写真を見ると、そのすべてがそろっているのである。まず中央に浮かんでいる飛行船。大きすぎず、小さすぎずちょうどいいサイズで写っている。そしてそこから視線を左に並行移動させたところには風呂屋の煙突がある。うまい具合に煙がでている、と思ったらそうではなくて雲だったが、煙突の口にぴったりと張り付いているところが煙を擬態しているようだ。

のどかなムードの漂うこの場所はどこだろうと思う人には左下の電柱にヒントがある。「成子坂下」とある。青梅街道を新宿から中野坂上の方向に進んでいったあたりで住所は西新宿8丁目。いまは大規模な再開発で見る影もなくなったが、わりと最近までこのような風景が残っていた。三平ストアだって2005年までは健在だったのである。
(おおたけ あきこ)

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●紹介作品データ:
尾仲浩二
〈slow boat〉より
「slow boat01 1986 東京 新宿」
1986年撮影(2001年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:20.0x13.5cm
シートサイズ:30.0x24.0cm
Ed. 12
サインあり

■尾仲浩二 Koji ONAKA(1960-)
1960年 福岡県生まれ
1968年 千葉県君津市に移転
1982年 東京写真専1門学校(現・東京ビジュアルアーツ)を卒業し、以後フリーランスとして活動
    イメージショップ『CAMP』に参加 東京・新宿
1984年 『CAMP』解散
1988年 ギャラリー『街道』開設 東京・新宿
1992年 『街道』閉鎖
1993年 『03FOTOS』にて活動(2001年まで) 東京・渋谷
2002年 『photographers' gallery』に参加(2003年まで) 東京・新宿
2007年 ギャラリー『街道』再開 東京・阿佐ヶ谷
主な個展:1983年「背高泡立草のある町」(CAMP、東京)、1988年連続展「背高あわだち草」(88年4月より91年12月まで32回 街道、東京)、1999年連続展「MATATABI」(99年3月より2000年12月まで8回 03FOTOS、東京)、2001年「尾仲浩二展」(東京ビジュアルアーツギャラリー、東京)、2003年「slow boat+」(東京ビジュアルアーツギャラリー、東京)、2005年「フランスの犬」(冬青社ギャラリー、東京)、2006年「GRASSHOPPER」(ZEIT FOTO SALON、東京)、2007年「DRAGONFLY」(中京大 C・スクエア、愛知)、2010年「Tokyo Candy Box」(LE PLAC'ART PHOTO、パリ)、2011年「海町」(Gallery 街道)、2012年「I'm full オナカイッパイ」(そら塾、東京)、2013年「My favorite 21」(Zen photo gallery、東京)、他多数開催。
主なグループ展:1999年「東風」(051ギャラリー、プサン)、2002年「BLACK OUT」(日本文化会館、ローマ)、2003年「BLACK OUT」(日本文化会館、パリ)、2007年「写真美術館へようこそ」(東京都写真美術館、東京)、2009年「Voyages 6人のアーティストによる旅」(日本文化会館、パリ・東京都写真美術館 )、2010年「足利風景-旅の視線、地の視線―」(足利市立美術館、栃木)、2011年「Shigeichi Nagano & Koji Onaka//Ce qui se de'fait」(PHOTO4、パリ)、他。
主な写真集:『背高あわだち草』(1991年、蒼穹舎)、『Tokyo Candy Box』(2001年、ワイズ出版)、『slow boat』(2003年、蒼穹舎)、『DRAGONFLY』(2007年、冬青社)、『海町』(2011年、スーパーラボ)、他。

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大竹昭子 Akiko OHTAKE
1950年東京都生まれ。上智大学文学部卒。作家。1979年から81年までニューヨークに滞在し、執筆活動に入る。『眼の狩人』(新潮社、ちくま文庫)では戦後の代表的な写真家たちの肖像を強靭な筆力で描き絶賛される。都市に息づくストーリーを現実/非現実を超えたタッチで描きあげる。自らも写真を撮るが、小説、エッセイ、朗読、批評、ルポルタージュなど、特定のジャンルを軽々と飛び越えていく、その言葉のフットワークが多くの人をひきつけている。現在、トークと朗読の会「カタリココ」を多彩なゲストを招いて開催中。
主な著書:『アスファルトの犬』(住まいの図書館出版局)、『図鑑少年』(小学館)、『きみのいる生活』(文藝春秋)、『この写真がすごい2008』(朝日出版社)、『ソキョートーキョー[鼠京東京]』(ポプラ社)、『彼らが写真を手にした切実さを』(平凡社)、『日和下駄とスニーカー―東京今昔凸凹散歩』(洋泉社)、『NY1980』(赤々舎)など多数。

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