杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」 第13回 2017年04月10日 |
第13回 ハルデンシュタイン
一年前このエッセイを始めた時に、勤務先のあるハルデンシュタインでの生活を紹介しました。今回は再びこの村での生活について見ていきたいと思います。 人口千人ほどのこの村に英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ロマンシュ語、ルーマニア語、ノルウェー語、アラビア語、日本語。。が聞こえるインターナショナルな事務所があるのは知られていますが、村を訪れる多くの人たちは残念ながらその事務所建築だけを見て帰ってしまいます。お世辞にも"華がある村"ではないですが笑、それでも毎日通っても飽きない風景があり、ふとした日常の中にも小さな発見があります。 村を訪れると先ず目に入るのはお城です。シンデレラ城のような象徴的な高い塔はないものの、規模はなかなかのもので良い状態で残っています。綺麗なガーデンもあり、ここには村の役所機能はもとより、オフィスや作業所、個人の住居と幅広く利用されています。 ハルデンシュタインには1つしかお店(日本で言うスーパーまでいかない商店)がなく、しかも営業時間が07:30-12:15と夕方に時おり二、三時間という、日本の状況と比べるとかなり不便な設定です。昼休みに食材を買いに行く時間には皆注意しています。その上階にはこれも村唯一のレストランがあり、僕は滅多に行かないですが、美味しいスープをお昼に出してくれます。 村の建物の大部分はCalanda(カランダ)と呼ばれるこの地域を代表する山を背にして建ち並び、東側へ向かって開口を持っています。そのため冬でも綺麗な朝日が建物内に差し込んできてなんとも言えない美しさがあり、眠気なまこな僕をいつもやる気にさせてくれます。 事務所へ向かう途中、家の前に持ち込み、持ち出し自由の小さなライブラリーがあります。 人と知り合ってよく聞かれるのは、小さな村で働くとはどんなものであるのか、ということです。僕自身、こんな小さな村に世界中から人が集まって働いていることに対して、少し滑稽にすら思えてしまうことがあります。何もニューヨークやパリ、ベルリン、サンパウロなど大都市からわざわざここに来なくても(笑)。その妙な集まり感と言ったらいいのか、それでも働き始めると良い意味で考え方にギャップは有るものの、チームワークを妨げるような支障は驚くほどありません。それは僕らの目指し作ろうとしている建築、すなわち"使い易くて住みやすい、なおかつ新しい生活、ライフスタイルの提案(創造力)を掻き立てるものであって欲しい"ということが共通しているからでしょうか。 三月末現在、事務所には約30名のスタッフがいます。秘書マネージャー人事関係の人が5名。インターンと職業訓練学校生が9人。建築家は15名程です。日本のアトリエ設計事務所と大きく違うだろうは、働く女性の割合でしょうか。スタッフの半数以上は女性で実はプロジェクトリーダーも女性の方が多い。以前インターンの面接を担当していた時に、ピーターから半数は女性にすること。と言われたのを覚えています。建築をつくることは完全にチームプレー(事務所内に留まらず、現場も含めて多くの人が関わって建築を作ります)なので、チームの輪を乱すほどに強い個性があるよりは、社交力に長けた人が好まれるからでしょうか。僕が思うに、女性の方が落ち着いて物事を決断することに長けているような気がします。 さて話を村の様子に戻して、事務所からさらに奥へ歩いて行ってみます。さてここで質問です。今から紹介する建築のうち、ズントーが新築改修したものはどれでしょう? 真ん中奥の家 左手前の家 正解は全てです。事務所建築のみならず、ハルデンシュタインには何軒ものズントー作の住居(個人事務所を開く前にクールの歴史的建造物の修復の仕事をしていた頃のものも含む)があり、さらに何軒もの無名ながら素晴らしい建築があります。こうしたものを傍目に時系列で見ながら、自分なりのハルデンシュタインを散策されてみることをお勧めします。 (すぎやま こういちろう) ■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA 1984年生まれ。日本大学高宮研究室で建築を学び、2008年東京藝術大学大学院北川原研究室に入学。 在学中にETH Zurichに留学し大学院修了後、建築家として活動する。 2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりスイスにて研修。 2015年からアトリエ ピーターズントー アンド パートナー。 世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。 「杉山幸一郎のエッセイ」バックナンバー 杉山幸一郎のページへ |
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