ときの忘れもの ギャラリー 版画
ウェブを検索 サイト内を検索
   
杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」
第52回 2020年07月10日
ちぐはぐで、小さくて大きいもの

202007杉山幸一郎_img03

建物の設計をしている時には、ものの大きさを決めることに、とりわけ気を使います。

計画している住宅の縮尺模型を作ってみたところで、机や椅子といった、僕たちが身近に接していて、大きさがすぐに把握できる指標がなければ、部屋の大きさや天井の高さが一体どれくらいなのか、ただ見ているだけでは全く想像できません。
おおよその大きさがわかったところで、そもそも僕たちの体格に差がある。
例えばヨーロッパで見かけるキッチンの高さと日本のそれとは、5-10cmくらいの違いがあります。

スイス人は他の欧米諸国出身の人たちと比べると、体格はやや小柄ですが、それでも日本人より平均身長が高い。そこでの住宅寸法に慣れてしまうと、日本にある実家に帰った時に、自分が5%くらい大きくなった、巨人のように感じることがよくあります。

微妙な寸法の違いで、心地よさや使いやすさががらっと変わってきたりするのです。


≪縮尺を行ったり来たり≫
普段から建築の仕事をしていても、設計図に想像できる全ての情報を記載したところで、実際に建物が立ち上がってくる最後の最後まで、その図面に描かれた線がどう現れるのかを確信することは、とても難しいと感じています。
だからこそ、異なるスケール(縮尺)を行き来しながら、考えうるすべてのことをできるだけ事前に想定して、把握していこうと努力をします。

縮尺の大きさによって考えるテーマは異なり、表現すべき情報の量や種類が変わります。

例を挙げるとすれば、都市計画は街全体が見渡せるように縮尺1/1000、独立した建物であれば縮尺1/100。建物内の部屋同士の繋ぎ方を把握したい場合には縮尺1/50、部材の収まりは縮尺1/10。仕上げは縮尺1/1つまり原寸大。。。といった具合です。

1つの成果物 / 建築に到るまでに異なるスケールを何度も行き来し、それぞれのスケールで求められる抽象度、つまり抽象的な表現に留めておくべきものと、具体的に現れるべきものを、その都度、取捨選択して、デザインを多角的に眺めながら深めていくことは、建築家の仕事の特徴です。

別の見方をすれば、鑑賞者が異なるスケールという≪思考のスイッチ≫を入れ替えながら眺めることで、同じモノが工芸品のようにも、子供用家具のようにも、建築モデルのようにも見えることがある。
異なるビジョンで捉えることができるようになるのではないでしょうか。


≪ちぐはぐな組み合わせ≫
小学生低学年だった頃、祖父母の家に、年上のいとこが使い古したであろう、プテラノドンの形をしたハサミがありました。
物としてのサイズ感が良く、ハサミとしては子供にも小さめだったけれど、恐竜の中でもトリケラトプスかプテラノドンが特に好きだった僕は、迷わず「もし使っていないなら、僕にくれないだろうか」と尋ねて、運よく手に入れることができました。

しばらく経ってから、同じシリーズであろう、ティラノサウルスのような鉛筆削りも発見し、この2つを自宅の勉強机の上に置いて飾ったり、遊んだりしていました。

特に自分専用の文房具が欲しかったわけでも、恐竜のフィギュアが欲しかったわけでもありません。
実際、文房具として使うには少し使いづらかったし、フィギュアとして遊ぶには、容姿に力強さ、リアルさがありませんでした。

ただ単に、なかなか連想できないような2つのものが一緒になったのを見て、とてもわくわくした気持ちになっていたのをよく覚えています。それに、文房具だから学校にも持っていくことができた。

うまく言葉にできませんが、今思い返してみれば、たぶん当時は、時に眺め、時に使いたかった(でも実際に使ったことはほとんどなかった)、所有したかっただけだったのではないかと思うのです。


≪機能の組み合わせとスケールのジャンプ≫
今回、ときの忘れもので紹介している小さなオブジェクトシリーズは、形やサイズは似て異なるものの、できあがったものを眺め、触れてみると、自然と建築像が立ち上がっていくようなものを目指しています。

建築モデルとして、ある時にはフィギュアとして、もしくは文房具として。。
すぎやま こういちろう

杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。
2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、アーキテクチャーフォトにて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。


「杉山幸一郎のエッセイ」バックナンバー
杉山幸一郎のページへ

ときの忘れもの/(有)ワタヌキ  〒113-0021 東京都文京区本駒込5-4-1 LAS CASAS
Tel 03-6902-9530  Fax 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/

営業時間は、12:00〜19:00、日曜、月曜、祝日は休廊
資料・カタログ・展覧会のお知らせ等、ご希望の方は、e-mail もしくはお気軽にお電話でお問い合わせ下さい。
Copyright(c)2023 TOKI-NO-WASUREMONO/WATANUKI  INC. All rights reserved.