杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」 第59回 2021年02月10日 |
家具と建築 夏に行う個展に向けて、少しずつ制作を進めています。 のウェブサイトでも紹介されている、大きなオブジェクト≪Line & Fill Structure≫シリーズは、建築が組み立てられるように家具を作っていこうとする試みです。 そのシリーズに加えられる予定のこのオブジェクトは、プロトタイプの2作目段階。正面から眺めると神社の鳥居のように見えてくるので、≪Shrine≫と呼んでいます。 木の性質をできるだけ生かそうと組み立て方を検討し、木がしなやかに曲がり、戻ろうとする力を利用して、二枚の板に4本の脚を釘も接着剤も使わずに接続しています。 子供机にぴったりの高さであり、天板を作業面、二枚目の板にものを置いて使用することもできる。大人が座るベンチの高さでもあるし、リビングのローテーブルにちょうど良い大きさがある。 互いに少しだけ厚みの異なる二枚の板が、八の字のように取り付けられた脚によって固定されている。人が座るとその重みで木材が外側に開こうと圧迫されて、さらに全体の強度が増す仕組みになっています。 こうしてモノの成り立ちを目に見える形で知ることは、説明的 (erklärend) でありすぎるかもしれないけれども、建築を見てその作られ方がわかるのと同じように、とても大切なことだと僕は考えています。 建築の建てられ方がわかる。 つまり、はじめに一体どんな要素が現れて、次にどんな要素がきて、そして互いに組み合わさっていくのか。それはそのまま、設計デザインの思考プロセスと重なっていくものだし、多くの場合、はじめの方に現れてくるものが、設計を理解するにおいてより重要なものであることが多い。 僕に木材の、木工のイロハを教えてくれ、このオブジェクトの制作を担当している家具職人Serge Borgmannは、家具職人になる前に、長らく建築事務所でドラフトマンをしていました。 彼は十数年建築に携わった後、趣味ではじめた家具制作と建築設計の二足の草鞋をはき、その頻度を右から左へ少しずつ移しながら、気がつけば100%で家具職人として働くことになっていたといいます。。(もちろん、ふと気づいたら。なんてことはないのだろうけれど笑) 彼と協働していると、僕はいつも文句 (裏返せば真摯なアドバイス) を言われてしまいます。 建築家は平面、立面で寸法をチェックしてプロポーションを決めるのだけれど、何枚のスケッチや図面を描いて調整したところで、実際にプロトタイプを作って少し斜めから、そして少し上から眺めると全然違った印象になる。木目の微妙な方向や予想される反りの方向。色合い、継ぎ目、そして表面加工によって生まれる表情の硬さ、柔らかさ。 だから家具作りは何枚ものスケッチよりも、作りながら検討していく方が、多くの発見と前進があるということ。 建築はそれ自体が大きいから、サイズや位置を変更するときに、比較的大きなアクションになる。けれども家具のプロトタイプでは、部材を1ミリ削るだけで驚くほどに見え方が変わってくるという。 1ミリなんて、まさか。。なんて思っていたけれど、実際に削っては組み立てて、を繰り返していくと1ミリ単位、(正直に言えば僕にとっては2ミリくらいから) 全然別のものになってくる。 それは、こうした家具のスケールでは、ある部材そのものの大きさが変化することよりも、その部材と隣の部材、組み合わされている部材との関係の中で変化していくものに、より注目しているから。 部材同士がすぐそばにあって、それぞれが家具の一部としての役割をはたしながら協調し、またせめぎあって存在している。 写真にあるプロトタイプ2。これから僕たちは脚部の見付けを2ミリ太くして、上の天板を1ミリ薄く、2枚目の板を1ミリ厚くしようとしています。 工房の一角にスプルース (Fichte) の天板とセイヨウトネリコ (Esche) の軸組でできた本棚が制作中だった。一見するとどちらも白っぽく、同じ樹種だと思ったのだけれど、よく見ると少しだけテクスチュアが違っていた。 一般的にスイスでスプルースやモミ(Tanne)と言えば、柔らかく軽く加工しやすい樹種として知られ、DIYショップでよく見かける。その分やや安っぽさも見えてしまう。 けれども、標高3000m以上の過酷な環境で育ったアルプスの特別なスプルースは年輪の密度が大きく、柾目にすると非常に繊細な木目が見られる。さらにその表面をかんなで削ると、シルクのような柔らかさと光沢が現れる。 セイヨウトネリコは、ぱっと見た感じではスプルースと似ているけれど、柔らかなスプルースと隣り合わせになった瞬間、その硬さと強さが目に見えてくる、カチッとしてくる。 建築設計をしていると、ここは木のパネルでいこう。とか、ここは無垢のフシ無しでいこう。とかざっくりとした表現で進行していくことが多いのだけれど、少しだけフォーカスポイントを調節してみるだけで、プロジェクトの大きな視点すら変えてしまうくらいの、小さな調整の可能性が残されていることに、日々気付かされています。 (すぎやま こういちろう) ■ 日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ピーターメルクリ スタジオ)に留学。大学院修了後、建築家として活動する。 2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同アトリエ勤務。 2016年から同アトリエのワークショップチーフ、2017年からプロジェクトリーダー。 世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。”建築と社会の関係を視覚化する”メディア、 にて隔月13日に連載エッセイを綴っています。興味が湧いた方は合わせてご覧になってください。 「杉山幸一郎のエッセイ」バックナンバー 杉山幸一郎のページへ |
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