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『アンジェロ・マンジャロッティ 1955-64』


 前回の、関根伸夫作品集紹介にあたって、建築家・原広司の名が出ていますが、ついでに原がそれなりの関わりをもったというべき、イタリアの建築家アンジェロ・マンジャロッティの作品集を今回は取り上げようと決めていたところ、偶然にも『デザインの現場』2006年2月号(美術出版社)のブックデザイン特集で、この本がけっこう大きく紹介されていました。40年前に植田実が企画製作したものです。
 「それまで彼(註:マンジャロッティ)の仕事を断片的に見てはいたが、この本によって知った全貌はあまりにも衝撃的だった」と、デザイナーの川上元美さんは語っていますが、これがきっかけで、本が刊行された翌年から約3年間をマンジャロッティ事務所で過ごすことになります。その素早い行動力には驚かされますが、衝撃の強さも想像できるようです。建築家が「都市計画や建築からCI、家具や食器などのプロダクト、車のコンセプトまで一通り何でもデザイン」するようなことが日本ではまだあり得なかった時代ですから。川上さんがこの本にそれほど触発されたとは植田も知らなかったようで、びっくりしたり喜んだりでした。
 マンジャロッティの仕事は、工場や教会堂や集合住宅などの建築も、時計や花器や棚などのプロダクトも同じように、とても明快、しかし幾何学的な表現に頼るというよりは自然の形態にむしろ近い。たとえば樹木や貝殻を連想するような。といって自然造形の表現主義に傾くことなく、可愛らしいとでも言うべき性格を感じさせながら透明度の高いモダニズムを貫徹していると、植田は話しています。この本が刊行されて以来、日本の建築家やデザイナーの彼への関心は今日まで継続してきたといえますが、どこかマイナー・ポエット的な評価で、大きく問題化されたことはなかったともいえる。しかし、一昨年の2004年、ギャラリー・間で本格的な個展が開催されました。このためにつくられた小さな本もとてもチャーミングです。植田による40年前の作品集はほぼ正方形ですが、TOTO出版の本も正方形。秋田寛さんによる赤いアクリルの表紙はプロダクト・デザインのイメージをあきらかに意識しています。
 この本に植田も文章を寄せていますが、「1960年代、東京で」と題されたそれは、ほとんど1965年刊のアンジェロ・マンジャロッティ作品集製作の苦労話に終始しています。その冒頭に、当時マンジャロッティにハマっていた若き日の原広司や香山壽夫が垣間見えます。つまり、ごく一部の建築家たちによる熱い支持が単行本として具体化し、それは世界で最初のマンジャロッティ作品集となりました。そんなことも含めて、TOTO版をぜひ見て下さい。まだ手に入るはず。植田の編集した65年版の作品集は残念ながら絶版、出版社も今はありません。そのかわり、マンジャロッティの基本コンセプトによる表紙ジャケット案(これは使用せず)を当時の資料として、お目にかけることにします。 

(ときの忘れもの 九曜明)




『アンジェロ・マンジャロッティ 1955-64』
発行日:1965年5月1日
企画・製作:植田実  発行:青銅社
サイズほか:26.0×26.0cm、140ページ(和・伊・英文)
表紙:ハードカバーにジャケット、ケースつき



『アンジェロ・マンジャロッティ』
発行日:2004年9月20日
企画・編集:ギャラリー・間  発行:TOTO出版
サイズほか:16.3×16.8cm 168ページ(和・英文)
表紙:アクリルカバーにビニールジャケット





『デザインの現場』2006年2月号より





『アンジェロ・マンジャロッティ 1955-64』
使用しなかった表紙デザイン案




植田実のエッセイ



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