ときの忘れもの ギャラリー 版画
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植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」
第43回 「美術展のおこぼれ 43」  2014年1月15日
「二川幸夫 建築写真の原点 日本の民家一九五五年」
会期:2013年1月12日―3月24日
会場:パナソニック 汐留ミュージアム

「飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡」
会期:2013年1月12日―4月7日
会場:東京国立博物館 本館 特別5室

「エル・グレコ展」
会期:2013年1月19日―4月7日
会場:東京都美術館

「書聖王羲之」
会期:2013年1月22日―3月3日
会場:東京国立博物館 平成館

「記憶写真展」
会期:2013年2月16日―3月24日
会場:目黒区立美術館

「フランシス・ベーコン展」
会期:2013年3月8日―5月26日
会場:東京国立近代美術館

「カルフォルニアデザイン1930−1965 モダン・リヴィングの起源」
会期:2013年3月26日―6月3日
会場:国立新美術館

「アートがあればII 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」
会期:2013年7月13日―9月23日
会場:東京オペラシティアートギャラリー

「アメリカン・ポップ・アート展」
会期:2013年8月7日―10月21日
会場:国立新美術館

「国宝興福寺仏頭展」
会期:2013年9月3日―11月24日
会場:東京藝術大学美術館

「ミケランジェロ展」
会期:2013年9月6日―11月17日
会場:国立西洋美術館

「加納光於 色身(ルゥーパ)―未だ見ぬ波頭より」
会期:2013年9月14日―12月1日
会場:神奈川県立近代美術館 鎌倉

「明治のこころ モースが見た庶民のくらし」
会期:2013年9月14日―12月8日
会場:江戸東京博物館

「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」
会期:2013年10月3日―2014年1月19日
会場:東京都現代美術館

「吉岡徳仁―クリスタライズ」
会期:2013年10月3日―2014年1月19日
会場:東京都現代美術館

「印象派を超えて 点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」
会期:2013年10月4日―12月23日
会場:国立新美術館

「横山大観展 良き師、良き友」
会期:2013年10月5日―11月24日
会場:横浜美術館

「京都―洛中洛外図と障壁画の美」
会期:2013年10月8日―12月1日
会場:東京国立博物館 平成館

「ターナー展」
会期:2013年10月8日―12月18日
会場:東京都美術館

「カイユボット展―都市の印象派」
会期:2013年10月10日―12月29日
会場:石橋財団 ブリヂストン美術館

「植田正治のつくりかた」
会期:2013年10月12日―2014年1月5日
会場:東京ステーションギャラリー

「スヌーピー展」
会期:2013年10月12日―2014年1月5日
会場:森アーツセンターギャラリー

「土屋幸夫展―美術家、デザイナー、教育者」
会期:2013年10月19日―12月8日
会場:目黒区立美術館

「かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験」
会期:2013年10月19日―2014年1月13日
会場:川崎市岡本太郎美術館

「古径と土牛」
会期:2013年10月22日―12月23日
会場:山種美術館

「井戸茶碗」
会期:2013年11月2日―12月15日
会場:根津美術館

「ジョセフ・クーデルカ展」
会期:2013年11月16日―2014年1月13日
会場:東京国立近代美術館

「実験工房展 戦後芸術を切り拓く」
会期:2013年11月23日―2014年1月26日
会場:世田谷美術館

「生誕140年記念 下村観山展」
会期:2013年12月7日―2014年2月11日
会場:横浜美術館

「磯崎新 都市ソラリス」
会期:2013年12月14日―2014年3月2日
会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]

「16th DOMANI・明日展 建築×アート」
会期:2013年12月14日―2014年1月26日
会場:国立新美術館

 昨年2013年に入ってから始まった主な美術企画展で、見には行ったけれどこの「おこぼれ」にはまだ報告していないのを最近のぶんまでリストアップしたら、上のようにずいぶんな数になる。これに画廊の展示企画まで加えたらさらに多い。
 並行してやはりときの忘れものブログに書かせてもらっていた「松本竣介を読む」にかまけて、こっちのほうがおろそかになっていた。おまけに8月と10月に身体の故障で入院・手術とアフターケアで外出もままならぬ時期が続き、書くどころか見る機会さえ失なった。だからなんとか歩けるようになってまた美術館を訪ねはじめたころはもう年の終わり近くで、個々の美術展を追って何か書こうと思う前に、1年間という時間のなかであわただしく始まっては最終日を迎える、贅沢とも空しさとも受けとれるかずかずの企画展示を、いままでにはなかった距離から見渡すことになったようである。

 いい意味で、予想をいちばん裏切られたのは「印象派を超えて」展である。「点描の画家たち」という後半のタイトルだけに気をとられて、国内外のあちこちの美術館からその手の作品を集めたていどと早合点してしまい、別に見なくてもいいやと思ってたのが会期の終わり近くに偶々招待券をいただいたので行ってみたら、目からウロコだったのだ。
 ようするに、子どものとき近代美術の教科書で印象派について学び、そのなかにスーラやシニャックによる点描派という、やや極端な試みをした画家の少数グループがいた、ていどの知識でずっと今まで済ませていた。スーラは素晴らしいが彼の主要作品は日本では見られない、だから点描派の作品展といってもあまり期待できないと思っていたのが、まるで違う企画展だった。絵画における色彩を「点描」というスタイルに偏らせるのではなく、絵具をパレット上で混ぜ合わせることなくキャンバス上に「分割」配置する。この「分割」というコンセプトがにわかに広く作用して、モネ、シスレー、セザンヌなどを説明し、ゴッホからモンドリアンに及ぶ視野まで拡大してみせる。しかもこの視野に思いもかけない厚味をもたらしているのが日本ではほとんど見る機会のない、アンリ=エドモン・クロス、マクシミリアン・リュス、ジョルジュ・レメン、テオ・ファン・レイセルベルヘ、ヤン・トーロップ、ヨハン・トルン・ブリッカー、レオ・ヘステル、等々といった、これまでの先入観からすれば点描派と呼ぶしかない未知の画家たちの膨大な作品群が証人席に立ち、だからこそそのなかにあるスーラの、わずか4点の油彩風景と3点のコンテ・クレヨン、インク・鉛筆による素描が、点描いや分割の精髄に位置を占めていることがはっきり分かる。
 描かれた時点で絵画は完成するのではなく、観られる段階で初めて完成と考えることは、絵画を光学装置として見做す「発見」だったにちがいない。しかし点描としての表れはそれ自体の雄弁さにおいて新しい「スタイル」でもあった。ここに集められた作品群の多彩さはその「スタイル」への依処のそれぞれの個性の表れであり、その頂点はやはりゴッホということになるだろう。これにたいしてあくまで真正面から光学的表現をきわめようとしたのがスーラであり、しかしだからといって科学的探求のような様相に結果しない。どころか画家という存在の神性がその営為にこそ見えてくる気配がある。大真面目に対象の真を描こうとしたアンリ・ルッソオに似ている。
 この企画展のタイトルもサブタイトルも長いが、その前にもうひとつ「クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に」という冠タイトルが付いている。かつてない展示作品の見応えの原因はこの美術館の協力に尽きる。しかもこの企画展の英文タイトルは「DIVISIONISM」(from Van Gogh and Seurat to Mondrian のサブタイトルはそのまま日本語になっている)で、図録の解説では「分割主義」と訳されているがこの馴染みのない用語を表立って掲げたのでは客が来てくれなかっただろうし、まったく別の手法や流派を連想させかねないともいえる。主催者側の苦心のほどが察せられるが、自分なりに訳語を考えてもどうも良い案が見つからない。片仮名の「ディヴィジョニズム」にしたとしてもややこしい、などと考えているところに建築家の藤井博巳から電話があったので、このはなしをしたら彼も見に行ったらしく、やはりこれを日本語にするむつかしさが話題になった。そのうち藤井が「Divisionという表現はぼくの建築を説明するのにも使ったことがあるよ」と言い出して、「そうだ、そうだった」と応じているうちに視野はモンドリアンの先にさらに広くなっていくかのようだった。

 そのように、いわば進行するモンドリアンがもっとも圧倒的だった日本での企画展は1987年、西武美術館(宮城県美術館、滋賀県立近代美術館、福岡市美術館にも巡回)でのモンドリアン展で、写実的な樹が線のコンポジションに一気に置きかえられていく壮観は今でも忘れ難い。1912年前後のクレヨンの素描と油彩とが10点以上も展示されていた。その時代に先立つ点描的作品も少なくなかったが、とにかく樹のシリーズのインパクトがあまりにも強烈で、だがそれはモンドリアンという一画家の裡での具象から抽象へという進行であり、対して今回展は「点描派の画家たち」という問題意識を絡めながらフランス、ベルギー、オランダにわたる多くの画家たちを動員することで視野を変えている。
 そういう眼で、たとえば「植田正治のつくりかた」展に接すると、例の砂丘に点在する人物群が別の印象を帯びはじめるような気持ちになった。この展示構成が植田の最初期から最晩年までをていねいに辿っているために、完成された作品以上にそこに至るプロセス自体がとてもよく見えたせいもあるのだが、植田は家族あるいは集団という、本来は一体的に見られる存在を個々人に、見事に「分割」して知覚させることで異化作用ともいえる詩情を生み出した。そこに写っているひとりひとりはパレットの上で混ぜられる前の絵具のように純粋な色を保っている。と、そんな解読をしたくなる。
 さらにいえば、植田正治の砂丘にぽつりぽつりとたたずむ人々の姿は、北園克衛の詩を思い出させる。それは言葉がとくに改行によって極限にまで「分割」された立ち姿だが、これについてもあまりにも長い歳月を完成形に馴染んでいたので、2010年に世田谷美術館での「橋本平八と北園克衛展」を見て驚いてしまった。北園にあんなに立派な兄上がいたとは知らなかったし、そこから北園の生い立ちや詩の構想過程をあらためて考えるきっかけができたのだった。分割と純化が及んでいる視覚の範囲は広く深く、これまでのように美術の近現代を流派などによって分類することが急につまらなくなってきた。
 と、きりがなくなってきましたが、明日から3度目の入院なので、この辺で。無事帰還できたら、また上のリストから選んで続きを書かせていただくつもりです。今年もよろしく。
(2014.1.6 うえだ まこと)

植田実 Makoto UYEDA
1935年東京生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専攻卒業。『建築』編集スタッフ、その後、月刊『都市住宅』編集長、『GA HOUSES』編集長などを経て、現在フリーの編集者。住まいの図書館編集長、東京藝術大学美術学科建築科講師。著書に『ジャパン・ハウスー打放しコンクリート住宅の現在』(写真・下村純一、グラフィック社1988)、『真夜中の家ー絵本空間論』(住まいの図書館出版局1989)、『住宅という場所で』(共著、TOTO出版2000)、『アパートメントー世界の夢の集合住宅』(写真・平地勲、平凡社コロナ・ブックス2003)、『集合住宅物語』(写真・鬼海弘雄、みすず書房2004)、『植田実の編集現場ー建築を伝えるということ』(共著、ラトルズ2005)、『建築家 五十嵐正ー帯広で五百の建築をつくった』(写真・藤塚光政、西田書店2007)、『都市住宅クロニクル』全2巻(みすず書房2007)ほか。1971年度ADC(東京アートディレクターズクラブ)賞受賞、2003年度日本建築学会文化賞受賞。磯崎新画文集『百二十の見えない都市』(ときの忘れもの1998〜)に企画編集として参加。

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