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建築を訪ねて

辻邦生展〜磯崎新〜坂倉準三のレストラン
2009年9月7日(月)

軽井沢高原文庫
「辻邦生展〜豊饒なロマンの世界〜」
2009年7月18日[土]−11月3日[火]

8月22日には、夫人の辻佐保子先生と、友人であり、辻先生の山荘の設計者でもある磯崎新先生の対談があり、磯崎親衛隊としては万障繰り合わせて行かずばなるまいと、師匠の植田実先生と、ときの忘れものの磯崎番の尾立麗子と亭主の3人で、軽井沢に行って参りました。
高原文庫は軽井沢タリアセンという観光施設の一郭にあるのですが、お昼頃着いたので、食事がてら園内の湖水の周辺に移築された歴史的建造物をいくつか見てまわりました。

先ずは、アントニン・レーモンド設計の「夏の家」、1933年(昭和8年)に軽井沢南ヶ丘に自身のアトリエとして建てたもので、現在は、ペイネ美術館として運営されています。ペイネの絵などがところ狭しと展示されており、レーモンドファンとしてはちょっと不満なのですが、しかし70数年前の粗末な(簡素な)木造建築が移築再生されているだけで満足しましょう。
1974年に磯崎新設計により竣工した群馬県立近代美術館が、33年ぶりに全面的な改修工事を行い、リニューアルオープン。

次は小高い丘に建つ明治四十四年館[旧・軽井沢郵便局舎]。その名の通り明治四十四年に建てられた木造2階建て洋館で、昨年国の登録有形文化財に指定されました。
現在は、深沢紅子野の花美術館、レストラン・ソネットとして運営されています。
深沢紅子先生は、私が少年の頃、堀辰雄や立原道造らとの交友やその挿絵などによって知った憧れの画家でした。その頃はまさか一緒に仕事をできるなんて思いもしませんでしたが、後年現代版画センターをつくった時、盛岡第一画廊の上田浩司さんに連れられて練馬のアトリエに伺い、素晴らしい花の版画集「やさしい花」をつくっていただきました。


こちらが、その版画集です。
深沢紅子
版画集「やさしい花」
1983年
リトグラフ6点組
Ed.75
上左から「てっせん」「ゆりの木の花」
下左から「ふしぐろせんのう」「松虫草」「あけび」「ほうの花」
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丘を下って湖水のほとりに建つのが睡鳩荘[旧朝吹山荘」、1931年(昭和6年)にW.M.ヴォーリズの設計により建てられ、フランス文学者の朝吹登水子さんが別荘として使用していました。時間がなくて中を拝見できなかったのが残念ですが、さすが朝吹一族だけあって豪華な別荘建築です。

昼食をすませて、軽井沢高原文庫

文庫の前庭には、磯崎新先生が設計した立原道造の詩碑が建っています。磯崎先生にとっては東大建築学科の先輩である立原道造へのオマージュですから、詩碑は製図板を模してつくられています。

文庫の裏の木立の中に180人が参加して、辻佐保子先生と磯崎新先生の対談が始まりました。
論客のお二人がこもごも故人の思い出を、そしてお二人の別荘が隣り合って建つ経緯を興味深いエピソードを交え語られました。
実は、両先生とも体調が悪く、それを知っていた私たちは気がきではなかったのですが、参加者からの質問にも丁寧に答えられ、対談は2時間弱続きました。磯崎先生は体調不全のためそのまま東京にとんぼ返り。

さて、私たちはというと。朝の新幹線の中で、
亭主「ところで今晩はせっかくですからどこかうまい所で食事しましょう」
植田坂倉準三が戦前に建てた飯箸邸という木造住宅が軽井沢に移築されてレストランになっているらしいんだけど」
亭主「えっ、坂倉準三ですか。それ行きましょう」
植田「でもン万円もするらしいし、レストランの名前も場所も知らないし、たしか有名なシェフだったと思うんだけど・・」
尾立・それを聞いた途端、携帯を取り出し何やらピコピコ。あっという間にそれが追分にある三國清三シェフが手がけたフレンチレストラン「ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 」であることを突き止めた。いやまったく文明の利器とは凄いもんですね。
ディナーも9,000円からということで、ここは奮発して予約。

私、山を越した群馬県嬬恋村の出身なもので、このあたりは詳しいのだけれど、追分の南に開発されつつある新興別荘地は知りませんでした。
その一画にあるドメイヌ・ドゥ・ミクニ 。

玄関を入ると、左が暖炉のある居間で、二階まで吹き抜けになっており、右には昔は畳の和室だった小部屋。

大きなどろっとした壁の暖炉に何だか懐かしい感じが・・・・

中庭に出て振り返ると、あっと驚いた。
亭主「これ、等々力の今泉先生の家にそっくりですよ」
植田「ふーン、で誰の設計なの?」
脇でそれを聞いていた支配人「この建物の旧所有者は今泉篤男という方ですが」
えー! さっき何となく感じた懐かしさはそれだったんだ。
新幹線の中で最初に「飯箸邸」と聞いていたので、気がつかなかったのですが、美術評論家で京都国立近代美術館の初代館長だった今泉篤男先生は生前、等々力に広い敷地に建つ素晴らしい木造住宅にお住まいでした。
そのことは、今泉先生ご自身が『「家の精」について』という文章(『大きな声 建築家坂倉準三の生涯』所収)で書かれています。<>が引用です。
・・・・・・
<どういうめぐり合せか、私の現在住んでいる等々力の家は、坂倉準三の初期の作品である。坂倉君がパリの万国博に日本館を建てる仕事を済ませて日本に帰り、最初に没頭したのが、この家の建築だったらしい。私どもー坂倉や富永惣一やーは大学で団伊能先生に西洋美術史を教わった。(中略)その団先生が、坂倉君に依頼して建てられたのがこの等々力の家で5,6年前それを団先生から割愛していただき、今私が住んでいるというわけなのである。(以下略)>
・・・・・・
このことは私も知っていたが、「飯箸」という名はどこにも出てこないので、わからなかったわけだ。
今泉先生の生前に私はこの家を訪ねている。
没後はお嬢さんご夫妻がお住まいになっていた。

私は1991年10月に資生堂ギャラリーで開催された「今泉篤男と椿会の作家たち」という展覧会の企画に携わり、図録も編集したので、ご遺族に会いに何回か等々力のお宅にお伺いしている。

自宅での今泉篤男先生 今泉先生が描いた自邸
(旧・飯箸邸)

支配人のご厚意でゆっくり見学させていただき、特徴のある居間の大扉も開けていただいた。初めて伺った30数年前のことを思い出しました。
夕暮れが迫り、いよいよ食事。この夏一番の贅沢な時間が静かに流れて行きました。
(でも領収書みたら社長が怒るだろうなあ)





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ドメイヌ・ドゥ・ミクニ

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